「舞台裏の仲間たち」(10)
失意の座長をちづるが慰めているうちに
いつしか恋仲に落ちたと、周囲がまた囁やきを始めました。
事実、ちずると座長が結婚するまでには、
それほど時間がかかりませんでした。
またその当時に、いつのまにか横恋慕の形に追いやられた小山君が
どんな状態で、どうであったのかは、今の私の記憶には
まったく残っていません。
しかし、10年間も待った甲斐があったと
言葉を区切った小山くんが、
腕時計を確認しながらのっそりと立ち上がりました。
そろそろ、稽古が始まる時間でしす。
立ち去りかけた小山くんがくるりと戻ってきて、
私の耳元で囁きました。
「そういえば、茜ちゃんが体調を崩したために、
ここ一週間ばかり、劇団の練習を休むそうだ。
お前、心当たりはあるだろう?
後で、見舞いに行けよ。
もしかしたら、お前さんとは
義兄弟になるかもしれないからな、
じゃあ、末永くよろしく頼むぜ、
相棒。」
それだけ言い残すと、私の肩を軽く叩いて、
小山くんが、軽快に事務室を飛び出して行きました。
そういえば正月3が日のドライブ以来、
ここ10日ほど、茜とはご無沙汰をしていました。
茜が、体調を崩した?・・・
嫌な予感が胸をかすめました。
(11)へつづく
作品名:「舞台裏の仲間たち」(10) 作家名:落合順平