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「舞台裏の仲間たち」(10)

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 今夜も事務局で書類の整理をしていると、
早い時間に、舞台美術を担当している小山くんが差し入れを持って
私のデスクへやってきました。
武蔵野美大を卒業した彼は、いまは
隣町で美術の教師をしています。


 少し雑談をしているうちに、小山くんが意外なことを口にしました。
ここ数日のうちに日立市へ、茜の姉を訪ねて行くというのです。
特別な用事でも有ってのことかと訊ねると、またまた
意外な返事が返ってきました。


 「プロポーズに行く。」と、平然と言い切りました。
姉のちづるが離婚調停中であることは、先日、茜から聞かされていたのですが、
離婚が成立したとは聞いていません。



 「手紙を書き送ったら、
 近いうちに逢ってもいいという返事が来た。
 まだ、座長との離婚が成立したわけではないが、
 すでに1年以上も、お互いの別居が続いたままだという。
 一度行き会って、彼女の本心を聴いてこようと思っているんだ。
 俺も、10年近く、待ったから・・・」


 初めて聞く小山くんの心情でした。
そういえば10代の頃に、小山くんのほうから一方的に、
ちづるに恋慕している時期が有ったような気もしました。



 ちずるは当時から、見るからに大人びていて、
かつ、熟成しきった雰囲気を持ち合わせていました。
ふくよかな体型でどこか妖艶だったちづるは、取り巻きもふくめて
周囲にいる男たちの間では常に絶大な人気を誇っていました。


 時絵が、月夜に咲く宵待ち草の存在とすれば
ちずるは真昼に咲き誇る、ダリアかひまわりのようだと称されました。
対象的なこの二人の女優が、劇団のヒロイン役の割り振りも
過不足をつけず、綺麗に二分をして担当しました。



 その頃には誰もが、座長と時絵が
恋仲のようだと受け止めていました。
また当人同士たちも、そのつもりでいたようです。


 それが突然、何の前触れもなく、
時絵が、見知らぬ男性のもとへ嫁ぐという事態が発生をしました。
周囲は唖然としましたが、時絵は何ひとつとして語りません。
正確な事情や経緯などが、なにも明かされないままに、
時絵だけが、忽然として消える形になりました。