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望み行く明日

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夏。
 気色悪い生ぬるい風が俺の頬を撫でた。
「気色ワリイ……」
 思わず素直に言葉に出してしまう。
 今、俺は軽トラの後部荷台に乗っている。
 なので、風は軽トラが走る限り俺を撫で続ける。ぶっちゃけ、暑いし気持ち悪い。
「なあ、おっさん。あと、どれくらいなんだ?」
 座席で運転しているおっさんに聞いてみる。おっさんは指を一本立てた。それはあと1時間はかかると示していた。
「一時間ねぇ……」
 ただでさえ、滅入っていた気がなおさらに滅入る。俺は荷台で横になり青空を見る。
 綺麗な青空だ。
 どこまでも、高くて――。
 俺が、こんなにも小さい頃と比べて大いに育ったってのに、そこはまだまだ全然届きそうになくて――。
「ふわぁ……」
 あくびがでた。こんなに暑いのに。
 寝よう。どうせ、あと一時間も揺られるのだから。寝て、いい夢でも見よう。
 近くにあった麦わら帽子を顔の上に乗っけて、申し訳程度の日射病対策をした俺は早速、寝た。
「ぐぅ……」
…………。
……………………。
 ――遡ること1ヶ月前。
S学園。
 俺はクラスで大喧嘩をした。結果、相手は右腕腕を骨折、左肩を脱臼。
 腕を骨折させた、てこの原理は偉大だ。折った俺はその偉大さを罪悪感という形で噛み締めた。
 俺は普段は温厚な人間だと自負している。お調子者だが、決して、人は傷つけないように生きている。望まない干渉は、人の心を食らう。だから、俺はお調子者でも一線は超えないようにした。
それは臆病者の発想だ。
 俺の弱点――、
一度でも、心の枷が外れてしまうともうダメなのだ。
 俺は向精神薬を飲んでいる。
 その日は飲んでいなかった。正確には、制服の内ポケットにいつもある、それを喧嘩相手が隠した。だから、飲めなかった。
 そいつは更に俺をジャンキーだとか云々と挑発してきた。
ただでさえ、薬がなくて俺はイライラしていた。まあ、イライラといっても、怒りとは違う感情だ。
表すならば、黒い感情。
 挑発してくるのであれば、そいつは敵だ。
 少なくともそれがその時の俺の認識。
 正面に立ち、右の拳で迷わず顎を殴り抜いた。
 俺の突然の暴挙に、周りがざわつく。
 ――ああ、注目されてるみたいで気持ちいいじゃねえか。これはいいな。もう一度だ。
 すかさず、左手を拳にして、もう一発殴る。
 耐久力のキャパシティを失った相手は倒れた。
 俺は相手の右腕を持った。テコの原理で折る。
肘が90度、普段とは逆の方向に曲がった。滑稽な姿だ。
 次に肩をぶっこ抜く。次は、力づくで。
さて、次はどこを痛めつけようか?
もっと、もっと痛めつけても、別にいいだろ?
 そこで先生が俺をタックルして止めた。
それから色々とあって、結論。俺は都落ちを言い渡された。
 まず、精神疾患のレベルが1レベルあがってしまった。
 嬉しくないレベルアップだ。
 この国では、感情というものが何よりも重視されている。
かつて、この国は法律でしか物事を見なかった。どんな理由であれ、罪は罪だった。そして、その考えは道徳をも支配した。
徹底した法だけによる人権擁護。安楽死の拒否。情状酌量の抹殺。罪はいかなる理由をもってしても、罪。更には、異常な程の福祉政策。法の力を以って、福祉を完成されたものにしようとした。
この国は、どんどん税が課せられた。医療は発展し、ホームレスや無職の者などに対する政策も充実した。
けれども、新たな生命や、僅かな給料で生活をするものたちにはなにも施しはなかった。
税に圧迫された彼らは行き場を失った。その分、生活保護や年金で生活をしているものたちの生はどんどん伸ばされていった。
その結果、少子高齢社会ができた。
どんどん減少していく出生率や、若者の自殺などを考慮し、国は法律を大胆に書き換えた。
それが、精神衛生法案。
まずは道徳の授業がよりさかんに行われた。
次に大手企業が、貧しい者たちを救うために寄付を義務付けられた。
精神衛生法案ができてから、1世紀。今、生きている人間は基本、感情論が中心だ。
 だから、俺を挑発した奴は、こうなることは十分に予測できたということで、自業自得となる。よって、俺は慰謝料とか、治療費を払う必要はない。周りのクラスメートたちも奴の悪意ある行動を証言してくれたので、この時には俺は罪悪感と謹慎以外には大きな罪には問われなかった。
 でも、困ったことに俺はやりすぎてしまった。
 だから、田舎に都落ちすることとなった。
 ――喧嘩から1ヶ月後の今朝。
 謹慎ライフを楽しんでいると、特別心理管理委員会の人が軽トラに乗ってきた。
「おら、坊主。行くぞ!」
 いきなりどやされた。
「どういうことっすか?」
 疑問をそのまま口に出す。
 そこでやっと説明された。
「お前は精神分離レベルが6になったから、一般社会には危険だから保護することになった」
 保護。
 いい言葉だけど、実質、監禁です。
「分かりました」
 でも、この事態がいずれ来ることは、レベル4になったときから十分覚悟していた。
 ちゃちゃっと荷物をまとめて軽トラの助手席に乗ろうとする。
「そこはもう一人のための席だ」
 なぜか、後部荷台に乗せられた。
「ここって大丈夫なんすか? 法律的に」
「今の時代、訳を言えば小さな違反は見逃されるんから大丈夫だ」
 ……不安だ。
 …………。
 ………………………。
 夢であらすじってけっこうな頭をしているな俺。
 上半身を起こし、、周囲を見る。流れる景色は田んぼに埋め尽くされている。俺のいる荷台には枕代わりの荷物に、日陰代わりの麦わら帽子。
 運転席には、寝る前と変わらず運転しているおっさん。
 その助手席に、少女が座ってた。
「うい?」
 思わず、変な声で疑問をあげる。幸い小さな声で聞こえなかったみたいだ。
「なあ、おっさん。この女の子は?」
 改めて声をかける。
「おう、おはよう。この子はおまえさんと同じさ」
「ほー。軽トラにレベル6が二人もいるのか」
 危ねえな。
自分で言うのもなんだが、精神分離レベルが4からは衝動的に危険行為を行うとされている。
 レベル5はそれが慢性化しつつある人。レベル6は社会で生活するには危険とみなされているほど悪化している人だ。
 ついでにいうと、最大はレベル10だ。10になると保護管理所。もとい、刑務所みたいな場所行きになる。
「この子はな」
 おっさんが一息挟む。
「レベル8だよ」
「え?」
 相当危険じゃないか。レベル8……。今まで出会ったことがないから未知数だ。
「ま、まあ、自己紹介しようか。俺は坂上幸季って言うんだ。アンタは?」
「……」
 ……返事なし。
「ああ。この子はちょっと、外部の刺激に鈍感なんだよ」
「そうなんだ。じゃあ、そっとしておく」
 俺はまた横になる。
 そして、青空を見る。
 どこまで、どこまでも、高くて――。
 綺麗な青空だった。
 昔から見ていて飽きない。
 もっとも、昔はもっと俺の周りに人がいたんだけどな。
例えば、母親とか、父親とか、兄貴とか、ね。
「…………」
 これが、俺と観月明日香との出会いだった。
作品名:望み行く明日 作家名:よっち