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挽歌 「こわれはじめ」

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「戻れないって言ったのは、誰ですか?」
 大介は我ながら、適当なことを言ってしまったという顔をしている。
「……はぁ。なんでこんなのに、俺は好かれるんだ?」
「人徳ってものだと、私は思いますよ」
「そうね、大介さんはモテるもの」
 横から、唯がしゃしゃり出てくる。
「あ、お姉ちゃんだ。でも大介さんは渡さないんだからねー?」
「別に大介さんを取るなんて、一言も言っていないのだけれど? ねえ、大介さん」
「俺に振るな、俺に」 

 結局、当初振り込まれる予定だった金額を大幅に上回る代金が、彼の口座に振り込まれていた。
 小川会解散、というのが大きかったのだろう。
 明細書を見ながら、大介はほくそ笑む。
「これならしばらく働く必要は無いか。肩のこともあるし」
「何割ほど持ってっていいんだ?」
「……肩の治療費も含めて、六割でどうだ」
「乗った」
 笑いを浮かべる京太郎。元衛生兵であった京太郎は、医療にも長けている。
「おはよー!」
 ドアを開け、華憐が勢いよく入ってくる。
「学校はどうした」
「愚問ですよ!」
 このしてやったりな顔が、最高にさわやかで、うっとおしい。
 煙草の火を消し、冷蔵庫に手を伸ばす。
「買い足しておいたぞ、代金半分払え」
「ソルティライチごときで小さいぞ、大介」
「人の金で箱買いしておきながら、ぬけぬけと」
 ぶつくさ言いながらも、ペットボトルを二人へ投げ渡すことは忘れない。
「そういや、屋台の大志ちゃんがぼやいておったぞ。ここ数日、顔を出さないから売り上げが落ちたと」
「俺と爺で成り立ってるのかよ、あの店」
「それで、次の仕事はどうなるんですか?」
「……うん、確かに言ったのは俺だよ? だけど、あんな目に合ったのに懲りないのか?」
 ちょっと考え込んで、華憐は回答する。
「こんな僕でも、役に立てるんだったら……それはとっても、嬉しいなって」
「昨日見たアニメの台詞をドヤ顔で使うな。ま、この俺がいるんだから――お前一人増えたって、守りきってやるさ」
「儂もか?」
「てめえは自分で出来るだろ」
 高笑いする京太郎を視界から外し、手元の書類を眺めようとする。
「えへへ、それはつまり一生僕を護ってくれる……そんな感じでいいのですよね?」
「調子に乗るな、全く……」
 彼らは今日も、こうして日常を過ごす。
 進む道が非日常で、身の安全も保証できず、簡単に命が飛んでいく――そんな日常だったとしても。
 きっと、笑いながらこう言うのだろう。
「何、なんとかなるだろう」
「僕たちがいれば」
「完遂できない仕事は、無いからな」

「こわれはじめ」 完