不揃いの本たち〜指なし男と失恋女〜
「あなたは人に本を譲ることで、親指の喪失感を癒す。私は本を手に入れることで、過去の恋愛の喪失感を癒す」
「そのとおり」
「持ちつ持たれつってワケね」
「そういうこと」
「でも、私ばっかり貰っちゃっていいのかしら?私は本を貰ったけど、あなたには何もあげていないじゃない?」
彼はちょっとの間、思案げに宙を見つめ、そして言った。
「何をプレゼントしてくれるかは、今度ゆっくり考えてくれればいいよ。あるいは、本を自分で読めなくなった男のために、ベッドの中で寝物語を語ってくれてもいいんだぜ」
「・・バカじゃないの?やっぱりそういう部類の男だったのね」
私たちは笑い合い、グラスをカチンと合わせて、改めて乾杯した。二つの癒された心を祝す、東京、夜の10時半。
作品名:不揃いの本たち〜指なし男と失恋女〜 作家名:ナガイアツコ