一緒に帰ろう
ナツは目を白黒させていた。
するとその時、俊介がナツを強く抱き寄せた。息も出来ないくらいに。
そして耳元でハッキリと聞こえた。
「好きです、だから俺と付き合ってください」
ナツは自分の耳がおかしくなければ今、俊介は自分と付き合って欲しいと申し出ている。
こんな事って、、、
「ダメですか?」
俊介はナツを抱きしめたまま続けた。ナツの顔が見られないほど俊介の緊張も半端ないのだろう。
「ダメですかって、、それはこっちの台詞なんだけど、、、」
ナツはぎゅーっと腕を伸ばし離れると、俊介の顔を覗き込んだ。
「私の方が年上なんだよ?」
子供に言い聞かせるような口調でナツが言った。
「それがどうしたんですか。うちの親なんて、母親の方が親父より5歳も年上ですよ。これも親父の遺伝かなー」
「ふふふふ。何それ」
あんまり俊介が得意げに話しているので、ナツは笑いが止まらない。
「笑いすぎです。でもそんな顔がこれからずっと見ていきたいんです」
急に俊介が真剣な眼差しでナツと向き合った。
「返事聞かせてください」
考える時間など必要ない。ナツは今、香織と同じ幸せの道へ向かおうとしてるんだから。
あぁ、神様。こんな素敵な彼と巡り合わせてくれて感謝します。
香織、あなたの結婚式に投げる花嫁のブーケは絶対私にパスしてね。約束よ。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
ナツはぺこりと頭を下げると、俊介は「よっしゃ」とまた強くナツを抱きしめた。
そしてナツの顔を見つめるとそっと目を閉じ、ゆっくりとナツの唇に自分の唇を近づけた。
本当に綺麗な男の子。ナツはそんなロマンチックな状況に浸り俊介に見とれていた。
「あっ、健ちゃんパパ・・・」
「え!?何!?」
ちょうど、俊介の後ろの少し離れた所に人の気配を感じてナツはつい、、つい、こんな大事な状況の中でお向かいの健ちゃんのパパを見つけてしまった。
ナツの「だったらいいな」が現実のものとなったのだ。確かに健ちゃんパパと帰るが一緒になるといいなって思ったわ、私。でも寄りによって、こんな絶妙なタイミングで一緒になるとは。
健ちゃんパパは見てないフリをして早足で立ち去って行く。
俊介は慌ててナツから離れると立ち去って行く健ちゃんパパを心配そうに見つめていた。
「今のお父さん?」
「違うの、うちのお向かいの健太郎君のパパ。時々帰る時間が一緒になることがあるの。」
「え!?そうだったんですか?俺てっきり、、、お父さんかと思っちゃって」
俊介が照れくさそうに頭を掻いている。可愛い。
「驚かせてごめんね」
ナツはそう言うと、背伸びをして俊介のほっぺにキスをした。
俊介の顔はみるみる赤くなった。
「川原さん、可愛すぎです、、」
そうして、やっぱりナツを強く抱きしめた。
健ちゃんパパ。
こらから時々3人で帰ることがあるかも知れないけど・・・よろしくね。
fin