二人の王女(5)
あすかはシェハの後ろからおずおずと顔を出した。その容姿に、二人の騎士は目を見開いて、マルグリットと見比べた。
「アスカはこの世界の者ではないらしい。我々も、アスカがどこから来たのかはわからない。しかし、アスカは何やらお告げを聞いてここへやってきたらしい」
「確か、アズベリーの王女は、お一人と…」
「そうだ、だから我々もよくわからない。しかし、害はない。安心しろ」
害はないと云われても…と、あすかは内心複雑な気になった。
「とにかく、ここに居ては危険だ。早速出発するとしよう」
あすかは、無惨にも斬られた奇妙な生き物たちを横目に、シェハに訊ねた。
「あれは何だったの?」
「これは、ジョハンセ。世界には人間と精霊、そして神が意味を与え損ねた、未熟な生体がある。このジョハンセは、まさにその未熟な生体なのです。知能を持たず、生きているものを見ると食って掛かる。厄介な生体なのです」
「だから、人間食いたいって云ってたのね…」
あすかは何気ない気持ちで、そう云った。しかし、その言葉に、周囲はあすかに振り返った。
「アスカ、おまえジョハンセの言葉がわかったのか?」
マルグリットが、血相を変えてあすかに詰め寄った。
「えっ…えぇ、人間食いたいって、そう云ってなかった?」
その言葉に、周囲は驚愕を隠せないようだった。どうしてそんなにも驚かれているのかが、あすかにはわからず、ただきょろきょろと辺りを見回すだけだった。
「二人の王女、という言葉は、あながち嘘でもなさそうだ」
マルグリットが云うと、あすかは「どういうこと?」とシェハに訊ねた。
「ジョハンセの言葉は、王家の特殊な血を引く者にしかわからないのです。だから、ジョハンセの言葉は我々にはわからない。ただの唸り声にしか聞こえないのです。あの言葉がわかるのは、マルグリット様だけのはずなのです」
二人の騎士は、状況が飲み込めないようだった。マルグリットは、あすかが聞いたお告げの内容を簡潔に説明した。信じられないようだったが、ジョハンセの言葉がわかったということで、話に信憑性をもたらしたようだった。
「アスカの素性が、少なくとも敵ではないことが証明された。とにかく、先を急ぐ」