二人の王女(5)
「…本来であれば敵であるアズベリーだが、恩を仇で返すようなことは我々厳正なる騎士にはできない。ここで貴女に出会ったことは、内密にしよう」
二人の騎士らは顔を互いに見合わせると、大きく頷き合った。
「先刻の会話を少し聞かせてもらった。そなたたちはサガエル国の騎士のようだ。それも、ラズリーの花を求めている」
マルグリットが云うと、二人は会話を聞かれていたことにバツが悪そうに顔を見合わせた。
「聞かれていたとは迂闊であった。確かに、我々はラズリーを求めている」
「毒に冒されたか」
「もしや、貴女方も…」
それ以上は云わずとも、互いの事情は察することが出来た。
「そうか…そうすると、我々の国だけではないのかもしれないな」
騎士が、険しい表情で云った。
「しかし、こんなところにまでジョハンセが居るとなると、状況は深刻だ。そなたたちも、馬をなくしてもう戻ることもできないだろう。どうだろう、ここは国の敵対は休戦して、共にラズリーを目指さないか」
マルグリットの言葉に、驚いたのは騎士の二人だけではなかった。
アークが声を上げて云った。
「しかし、この二人は敵だ!いつ反逆に出るかもわからないのだぞ!」
「だが、エルグランセの洞窟はジョハンセの巣だ。我々三人で戦うより、五人居る方が心強い。それに、この者たちも同じ国を守る使命を逐った者。今は互いを歪み合うより、協力し、国を守ることを最優先にすることを心得ているはずだ」
二人の騎士の顔には、強い意志が漲っているのがわかった。
「共に行かせてください」
その表情に、敵である相手を欺こうとするような様子は見られなかった。
アークは、半信半疑の様子だったが、吐き捨てるように云った。
「ただし、馬はそなたたちが別れて前に乗れ。下手な反抗に出ようものなら、後ろから切り裂いてやる」
「では、決まりだ」
マルグリットは馬を降り、二人の騎士らに手を差し出した。
騎士らは、その手を取り、代わる代わるに云った。
「私は、キーチェだ。サガエル国の騎士だ」
「私はゼブラ。同じく騎士です。よろしくお願い致します」
マルグリットは、振り返り、順番に一行を紹介した。
「これはアーク、口は悪いが優秀な騎士だ。あの者は、シェハ。占術師だ。そして、あれはアスカ」