ハリーの憂鬱
車を発進させると、奥様とハリーが道路に出てきた。
バックミラーに、その姿が入る。
僕は一旦停止すると、バックミラーの中のハリーを見つめた。
「元気でな・・・ハリー・・・幸せにしてもらえよ。お前は、運の強い子だ」
再び発進すると、ハンドルを右に切った。
ハリーの姿が視界から消えていく。
僕は、ハリー達が来た十ヵ月前の事を思い出した。
捨てられた、三匹の犬。
ラブ、ハイジ・・・そして、ハリー。
この十ヵ月間、大変だったが、楽しい事もあった。
里親を捜す事の難しさを痛感し、また、人の優しさや愛も感じた。
今は、それぞれに環境は異なるが、みんな大きな愛に包まれて、幸せに暮らしている。
これから先、三匹と会う事は無いだろう。
雨に打たれた新緑が、青々と命を蓄えている。
この世に生まれてきたものには、全てに生きる権利と自由があるはずだ。
大事な命の炎を、人間の都合で消してはいけない。
尊い命の芽を摘んではいけない。
僕は都市高速に入ると、会社には戻らず、そのままチビ達の待つ、我が家へと向かった。
雨は、いつの間にか上がり、西の空がオレンジ色に染まっていた。