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格闘料理ショー

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ゴングが鳴って、両者が小走りに食材ゾーンに向かった。まず平が真っ赤に熟れた大きなトマトに手をかけた。すかさず源も同じものに手を出す。
「オレが先に掴んだんだ。離せ」
「いいえ私の方が先に触れてました」
なんとトマト一個で日中紛争かとアナウンサーがはやし立てる。
制限時間は45分だった。両者ともこんなことをしている場合ではないと悟ったか、平は掴んだトマトを源の顔にぶつけて、鮮魚コーナーに走った。源は曲がったキュウリを平に投げつけた。まるでブーメランのような軌道を描きながらそれは平の後頭部を直撃した。

工事用ヘルメットを被っていた平は、ちょっと頭に手をあてたが、そのまま大きな真鯛を掴んみ、乾麺の稲庭うどんを手にして調理場に向かった。そしてすぐに野菜コーナーに戻り、トマト・きゅうり・ナスという夏の定番野菜を選んだ。手堅く素早く料理し、残った時間を源の料理妨害にあてる腹づもりのようだ。源もまた同じ作戦か、鶏肉、キュウリ、鶏卵などを選んで、麺は生麺を使う様子だ。

平はとりあえず出刃包丁を使う下ごしらえを済ませると、包丁を持って食材ブースに行き源の様子を窺った。背中を見せている。チャンスだ。平は出刃包丁を源の太腿目がけて投げつけた。観客がざわめいたのを敏感に察した源は後ろを振り向き、飛んで来る出刃を中華包丁で叩き落とした。源はそのまま中華包丁を投げつけようとして、かろうじて踏みとどまった。まだ使わなくてはならない。その間に平は自分の調理場に戻った。

源はコショーの瓶から中身をそっくりラップに移して、簡易爆弾をこしらえると、平に出来るだけ近付いて投げつけた。しかし、丁寧にくるみ過ぎたのか、平のそばにぼてっと落ちただけで、粉が舞い上がることは無かった。ん? 面白そうだと、荒川は小麦粉3㎏ほどをビニール袋に詰め替えて、口は開けたままで源目がけて投げつけた。

それは航空ショーのアクロバット飛行のように空中で白い煙の線を残しながら源の足元に落ちた。舞い上がる白煙。一瞬視界を失った元は大きな中華包丁を団扇のように使って視界を確保した。凄い腕力だ。それを見た荒川は、格闘ではかなわないと料理に専念しようと思った。時間も残り少なくなっている。
作品名:格闘料理ショー 作家名:伊達梁川