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アグネシア戦記【一巻-序章】

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であろうが自国であろうが皆殺しにするという政治を始めた。魔王は手始めに軍を率い、セクマディに古くから対立していた隣国【ゼヌディクト】を奇襲に近い攻撃で制圧し、その国の民達を見せしめとして女・子供であろうと容赦なく斬首するという残忍極まりない処刑を行った。そして切り取ったその首を、中央アグネシア大陸に散らばる国々に送り付けて宣戦布告を表明し、その後にアグネシア統一を掲げて、無益な進攻を開始した。

それを受けた他の国々はセクマディと魔王の行いに反発し、アグネシア連合軍を結成する。それによりアグネシア戦争が開戦した。

始めは魔王軍の兵力80万を遥かに凌ぐ1000万もの兵力を持ったアグネシア連合が優勢だと誰もが思い、信じていた。

しかし、魔王軍は桁外れに強かった。そんな魔王軍の前に一つ、また一つと国が敗れ去り滅んで行った。そうして魔王軍は、たった一年という短期間で中央アグネシア大陸の約80パーセントを侵略し、現在に至る。

残りの20パーセントは二つの国である。

一つは魔王の軍勢ですら容易に突破する事が出来ない堅牢な城壁と優れた兵隊を持った大国【聖霊都市アレクセイ】。もう一つはアグネシア大陸で唯一セクマディに対立する規模も小さく弱小な国【ネビル・アグネシア】である。
魔王軍に領土を次々と削り盗られ、兵力の半数以上を失い。いつ攻め落とされてもおかしくない状態でありながらも滅んだ国の民や敗残兵をかき集め魔王討伐連合を設立し、最後の抵抗を見せようとしていた。

ある少女が来なければ―魔王討伐連合は壊滅し、中央アグネシア大陸はセクマディにより統一され、混沌と化していたであろう。

…その少女の名前は【フリル・フロル】(当日13歳)。

「おい、君…」

それは連合軍本部のあるネビル・アグネシア港での出来事である。朝、一人の兵士が一つの小さなカヌーが港に流れ着いたのを発見したのだ。

それに乗っていたのは幼い少女だった―歳は12か13位で、その目蓋は閉じられているも、顔は死人のように青ざめているわけではなく、気持ちよさそうに寝息を立てて眠っていた。その寝顔は遠目から見ても妖精と見間違えるほどに愛らしい少女だった。

兵士は思わず手に持った棒で今にも再び沖に流されてしまいそうな少女のカヌーを陸へ寄せ、眠る少女を起こそうと呼び掛けた。

「う…ん〜」


返事はない…少女はただ気持ちよさそうに眠っていた。時折寝返りをうつ仕草が歳相応の愛らしさを醸しだす。完全に熟睡している様子が見てとれた。

「おい、起きろって」

困った兵士は今度は持っていた棒で少女の頬を突こうと試みた。虫も殺せぬ程度の力で優しく。


しかし、それは叶わなかった…少女が目を覚ましたから。

目を覚ました少女がとった行動は単純明快。棒が頬に触れる寸前で掴み、おもいっきり引っ張る。

「うわああ!!」

兵士は強い力で急激に引かれた事に反射的な反応をする事ができず、そのまま海に転落してしまう。

兵士は鎧を着ているため当然重い、もし海に飛び込んだらどうなるか。…想像したくもないだろう。

「まったく、久々に気持ち良く寝れたと思ったら…」
少女は悪びれもせず、溺れている兵士の首根っこをまるで猫を掴むが如くその小さな手で掴み。そのまま陸に放り投げてから自分も上陸した。上陸した少女の兵士に対する一言はこうだった。

「あたしを王様に会わせなさい」

そんな命令口調で平らな胸を張り高圧的にも見える態度で地面に倒れたままの兵士を見下ろす。しかし兵士は聞こえてはいない様子だった。反応していないのではない、単純に驚いていたのだ。自分を海から引き上げた少女のその腕力に。

兵士は痩せ形だが、決して軽くはない何故なら軽鎧ながらも鎧を着こみ剣を携帯しているのだから尚更である。そんな自分を【少女は片手で軽々しく掴んで陸に放り投げた】のだから兵士が呆然としているのも頷ける。

「聞こえてない?…おーい…むう」

しかしこの少女は違う。自分が無視されていると思ったのか。幼さを残す愛らしい顔立ちを不満で大袈裟に歪め次の瞬間には行動に移していた。

「話し聞けってんでしょぉがっ!!」

次の瞬間には苛立った少女の爪先が、身体を起こして立ち上がろうとした兵士の股関を蹴りあげた。

【ガィイン!】

激しい金属の激突音が人気の少ない港に響きわたる。
普通ならそんなふうに鋼の鎧を蹴ったなら、少女の運命は一つだろう。【片足を抑えて泣き喚いている】だろう。しかしこの少女の場所は違っていた。

「―――っツ!!!!?」

地面に崩れ落ちたのは鎧を纏った兵士だった。兵士は股関を蹴り上げられた痛みで悲鳴も挙げることも出来ずに倒れ蹲りそのまま意識を失った。

「役たたず…」

少女は気絶した兵士を冷たく見下ろすと、すぐに相手をするのを面倒になり、迷路であろうネビル・アグネシアの街中へと入り、目的地になろう連合軍本部へと向かっていった。

彼女の名前はフリル・フロル。今年で十三歳になるこの年若い少女こそが、これからの物語の主人公である。

「こまったわ…」

フリルはいきなり困っていた。アグネシアの街は大きく、建造物はその全てが背が高く、城の場所を見失ってしまう。それはまるで古くよりあった街を利用した隠蔽であるかのように、その街路はまるで迷路だった。当然初めてやってきたフリルが迷わない訳がなく。フリルは途方にくれていた。

「なんだってこんなに入り組んでるのよ〜…はあ、直ぐ近くにあればいいのに…面倒くさい…」

そう街に対して愚痴を漏らしながら、フリルは広けた場所を探してトボトボと歩き続けた。一時間、二時間、狭い路地をひたすらに歩き続ける。時折鎧を着た兵士達とすれ違うが兵士達はフリルを相手にもしてくれなかった。フリルは兵士達から見ればそこらを歩いている子供そのものだからである。

そうわかりながらも。子供扱いされることを極端に嫌うフリルは。そんな兵士達を睨み付けてはその苛立ちを唇を尖らせるという明確ではあるが分かりにくい容姿特有な感情表現で表しながら歩いていた。

正直言えば一人ぐらいはぶちのめして道案内をさせようかとも考えた。しかしフリルはその考えを顔を横に振る事で頭の中から追い出した。

それはフリルがこの地にやって来た【目的】があるからである。その【目的】を達成するために、こちらの戦力はとても重要になるからだ。それを自分の考えのみで下手な行動をして悪戯に此方の貴重な戦力を削いでも因縁を付けられるだけでフリルの目標達成が難しくなるだろうと思ったからだった。

それから更に小さな路地を3回ほど抜けたフリルは。ようやく噴水のある大きな広場へと出る事が出来た。

そこは街の中心であるかのように開けており。大きな人だかりが出来ている。

「?」

フリルは小さな身長を出来る限りに使って人だかりの奥を見つめる。そこにあったのは大きなリングだった。それは、傭兵や騎士が自らの実力をアピールし金をかけあわせ、能力を向上させ、指揮を高める都合のいい実力の発表会…私闘である。