夏の宿題
「勘違いをしないでくれます? わたしは第六感なんてちっとも働いていないから。残念ながら、佐伯くんの研究に協力できませんっ」
と言ってみたものの、宇宙レベルでわたしの小説を公表されたらムチャクチャ恥ずかしすぎる。
絶対彼を野放しにしておけない。ぴったりマークして、なんとか企てを阻止しなければ。そのためには何をするのが一番いいんだろう。
「そんなのより、インタビュー! 佐伯くんのことをそのまま書くわけにはいかないので、何か答えを考えて。質問の内容に沿って、ちゃんとそれらしく答えてください!」
後輩たちのことを思うと、手ぶらで取材を終わらせない。とりあえず脱線してしまった話の内容を軌道修正することにした。シャーペンを持ち直す。
彼の顔をあまり見なくて済むように、ノートに視線を下げた。ノートには「好きな女の子のタイプは?」とか、「趣味は何?」とか、後輩たちに頼まれた質問が書いてある。
このインタビュー記事を載せる校内新聞の発行は、夏休み明けだ。校正するには十分な時間が残っている。
だけど、だけど――。
「え、趣味? そうだなあ。地球(ここ)に来る前は、暇さえあれば宇宙方程式を解いていたね。宇宙方程式、知らない? 大丈夫、数学は宇宙共通語だから。そんなに難しいことじゃないよ。簡潔に言うとさ、銀河内における文明社会の数を求める式なんだよ。それでさ、恒星が生成する平均速度が記号Rだとしたら、次は惑星系を持つ恒星の割合を求めてさ――」
彼の記事を載せるには、夏休みと同じくらいの時間がかかるかもしれない。
やっかいな夏の宿題を抱えてしまったなあ、と心の中でつぶやいた。
おわり