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つだみつぐ
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ひとつだけやりのこしたこと

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最終章 2011年06月18日 06時21分


次に電話したとき、ケンちゃんとのことを聞くとさとみは楽しそうに話してくれた。
しかし、前と同じように、一緒には住まない、と言った。
そして「やっぱり、こころのどこかに、先のことなんか、誰にもわからない、っていう感じは消えないの。だって、30年だよ。死ぬまで一緒だって、信じていたんだよ、突然いなくなるんだよ。」
「そうだね。あのね、わたしも2年半、信じ合って愛し合って死ぬまで一緒だと思っていた人がいなくなったの。」

さとみは一瞬、沈黙して、「ごめんなさい。」と言った。

さとみさとみ、もうそのことはいいんだよ。さとみはいっぱい謝ったし、誰も悪くないから。ただわたしの境遇を伝えただけ。


さとみがぽつりと言った。
「それもある。」
「え?」
「わたし自身も、先のことがわからないの。自分になにが起きるかわからないの。」
「・・・・・・・」
「だからなにも約束できない。」
「さとみ。わたしはこう思うよ、わたしたち明日にだって死んじゃうかも知れないでしょ、アルツハイマーになって目の前の愛する人のことだって忘れてしまうかも知れないでしょ。」
「うん。」
「だからといってそのことを思い悩んでこのいまの瞬間を無駄にすることはないでしょ。今日は今日を生きるしかないから、愛する人との時間を大切にすることの方が、精一杯いつくしみ合うことの方が大事でしょ。」
「そうだね。そのとおりだね。つださん、しあわせになってね。」
「ありがと。わたしもさとみのしあわせを祈っているよ。」
「ありがとう。」


電話を切ってから、深い余韻が残った。

話せてよかった。
さとみとこんなふうにふつうに話せるようになった。古い友達みたいだ。

こうしてわたしは少しずつ、あの日々を「過去」という名の棚にきちんと収めていくことができるようになっていきつつある。
やがてそれは暖かい「想い出」に変わるだろう。

しばらくわたしとさとみは連絡しないだろう。お互いのパートナーにとって、それぞれのカップルにとって、その方がいい。それぞれの相手を大切にしていくこと。

そうして、いつかわたしたちはまた、メールで、「どう、うまくいっている?」と、近況を伝え合うだろう。そしてお互いのしあわせを喜び合うだろう。
こころから。