ひとつだけやりのこしたこと
もう一度言うけど、さとみのせいじゃない。
離婚してしばらくしてうつ状態になった。
その後さとみと出会って、うつのことなど、忘れた。
今年の春、わたしは仕事上の挫折に見舞われた。30年わたしが一番大切にしてきた仕事だった。同時に毎月の収入も5万円、減った。
そのとき、わたしはまたうつ状態になった。
でも、今度はさとみがいたから、なんとか仕事はできたし、たとえば「自死念慮」には陥らなかった。
だから、今回わたしが長い(でも比較的軽い)うつ状態になったとしても、さとみのことは「きっかけ」であったとしても「原因」ではないと思う。
一方、さとみはこのことをきっかけにして「ふっきれた」ようにわたしには見える。とても明るくなった。こころの深いところにあった不安のようなものが春の池の氷のように溶けていった。
さとみは「自分の人生を自分で決める」ことがようやくできたのだ。
作品名:ひとつだけやりのこしたこと 作家名:つだみつぐ