ひとつだけやりのこしたこと
ありがとうさとみ 2010年03月08日 20時36分
さとみ
毎晩電話で話しているのだから、なにも公開日記に書かなくてもいいと思うかもしれないけれど、でも、一度、ちゃんとこの場所でも書きたい。このサイトがなかったら私たちは出会わなかったのだし。
さとみ
ありがとう。
あの頃わたしは苦しかった。
自分という人間がいやでたまらなかった。
さびしくてつらくて死ぬことばかり考えていた。
明日につながることを何もしなかった。30年近く手を入れてきた畑がすごい勢いで丈の高い草に覆われていくのを何もしないで見ていた。
さとみはもっとつらかった。わたしと違って何も悪くないのに突然絶望の淵にたたき込まれた。わたしと違って死ぬことは考えなかったけれど。
いっぱいいっしょに泣いたね。
歩いてきたね。
わたし変わったよ。
こどもみたいに素直になったよ。
自分の胸に素直になったよ。ひとの優しさに素直になったよ。
愛し合うことに素直になったよ。
まさかこの歳になって性格が変わるなんて思ってもいなかったけれど。
生きることに一生懸命になったよ。
畑ではやさいの種が芽を吹いている。
さとみに出会ったからなんだよ。
さとみに愛されたからなんだよ。
さとみに「大好き」って言われたからなんだよ。
こんな風にまっすぐに愛されたことないんだよ。
前は、それがどんなにすてきなことか知らなかったんだよ。
前は、そのことがひとをどんなに強くするか知らなかったんだよ。
ねえ
いっぱい知っているふりをしていたけどなあんにも知らなかった。
いま生き方を学んでいるの。
やさしいってどういうことか、思いやるってどういうことか、愛するって何をすることなのか。
生きるために何が必要なのか。
いっしょにだよ。
ねえ
だから
いっぱいいっぱいいっぱい
ありがとう
大好きだよ
作品名:ひとつだけやりのこしたこと 作家名:つだみつぐ