ひとつだけやりのこしたこと
2009年01月20日 20時37分
わたし、もう、自分のためには泣かないよ。もう、その涙は、十分流したし。泣くなら、二つ。彼女のための涙と、あと、うれし涙。
残された人生は、彼女をしあわせにすること、一緒にしあわせになること、それだけに使うことに決めたの。これまでの惨めな経験を糧にして。ちゃんと正しく愛し合うこと。悦びだけを与えあうこと。
彼女には、しあわせになる権利があると思う。30年の不幸せを埋めるほどのしあわせ。
人を愛することや、誰かのために全力を注ぐことは、個人主義であること、快楽主義であることと、矛盾しないんじゃないかな、てゆーか、矛盾しないあり方がある、かな。
わたしは間違いばかり重ねてきた。彼女は、しあわせだと思っていたけど、勘違いだった(その勘違いの罰だとしても、彼女の受けている仕打ちはあまりにひどすぎるよ)。そしてこの年になっちゃったけど、これまでのことは、今のためのレッスンで、準備期間だと思うことにしたの。こんなふうに愛せるために、失敗が必要だったんだろう、って。
いまはね、自分の胸に従うことにしたの。頭は、胸のすべてを理解なんかできない、たとえば、なぜ、ほかの人じゃなくて彼女なのか、もちろん、性格や考え方にいくつも共通点をあげたり、彼女の美点を数え上げたりすることはできるよ、でも、そのことは、今のわたしの胸の中の、これほどあたたかくて強い想い、そして彼女以外を愛せなくなった理由を説明しない。だけど、時に、頭は、胸に、何も言わずに従った方がいいときがあるの。頭より胸が正しいときが。
もうちょっとだけ、彼女には、つらい時期がつづくの。生まれて初めて、戦わなくちゃいけないから。しかも、相手が、かつて一度愛し合ったと信じた人。どんなにつらいだろう。
だから、今のわたしは、全力で支えようとしているの。わたし自身のためにだよ。
それと、わたしは、絶望してほったらかしにしてきたわたし自身の生活を、いま、立て直そうとしているの。二人で暮らすのだから。もう二度と一人じゃないから。
わたしはね、もう一度、生き直すの。初めて、ひとをちゃんと愛するの。一人のひとだけを。
作品名:ひとつだけやりのこしたこと 作家名:つだみつぐ