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つだみつぐ
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ひとつだけやりのこしたこと

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2009年01月19日 12時52分

個人主義者だった。自分さえよければよかった。
縛られることを拒否した。縛ることも嫌いだった。
快楽主義者だった。今が楽しければよかった。
麻雀が好きだった。パチンコが好きだった。
セックスが大好きだった。

それでも、時々、さびしかった。さびしがり屋だった。
わけのわからない欠落を抱えていた。

ある時、もっと楽しくて気持ちがいいことがあるよ、と教えられた。

なにも所有しないこと。
縛りあわない、お互いに相手を楽しく気持ち良くさせることだけを考える、そんな村を作ること。
誰も傷つけあわない世の中を作ること。

歴史じゃなくて地理の時間だよ、と教えられた。
遠い夢の未来じゃなくて、今ここに、どんなに小さくてもその場所を作ることだよ。
それが革命だよ。
そこが根拠地だよ。
野火のように、それが広がって、すべてを変えるんだよ。

夢中になった。
こんなに楽しく気持ちがいいことはほかにないと思った。

わたしにはそれが可能だと、思い上がった。


30年経った。

挫折を繰り返した。失望にまみれた。
人の醜さにも自分の醜さにも。

誰もいなくなった。
最後の一人まで。

みんなをしあわせにするどころか、ただ一人の女性さえしあわせにできなかった。

暗く冷たい部屋の中で、際限のない自己嫌悪にさいなまれた。

半年後に命を絶つことを決めた。
それまでの残された時間を自分のためだけに使うことに決めた。

せめて、わたしが考えてきたこと、わたしが感じてきたことの一部でも、誰かに伝えたかった。
せめて、一人で泣くのじゃなく、誰かの胸で泣きたかった。



前触れはなにもなかった。予感も期待もなかった。
ただ、彼女は、現れた。そして泣き続けた。延々と泣き続けた。
ああ、一緒に泣けばいいんだ、それぞれの悲しみを、そして相手の悲しみを。それでいいんだ。

わたしを必要とするあなたがいる。
あなたを必要とするわたしがいる。

生きる、と決めたのは、向こうからの短いメールだった。

 わたし、二度と傷つきたくない。しあわせになったって、いいでしょ?
 わたし、あなたと暮らすよ。
 いいかな?

ひとつ、し残したことがあったのだ。
ちゃんと愛すること。愛し合うこと。
しあわせになること。
とても簡単なこと。