ひとつだけやりのこしたこと
さとみの離婚-2 2009年08月23日 02時11分
そして
さとみからのメール
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「わたしの考えたこと」
多分、私の中には無意識に支配されようとする気持ちがあったと思う。
支配されていると、何も考えず、何かあっても支配者の責任にできて楽だったんじゃないかな。
支配者だったたかしから離れて、一人で生きようとして、どう生きていいかわからず迷っているところへ、つださんが現れて、支配者を入れ替えただけになりかけていたのかな?
でも、つださんと毎日、たくさん話をするうちにきっと私の意識の奥の方に「それではいけないんだよ」って気持ちが出てきたんだと思う。
だいすき。
いつも、そばにいたい。
だけど、訳のわからないイライラは何だろうって考えるうちに、少しずつ気持ちが整理できた気がするんだ。
つださんに、助けられて、寄りかかってここまで来て、やっと並んで歩くって事が分かった気がするよ。
最初は、車椅子を押してもらって、励まされて立ち上がって、でも、リハビリはきつくて何度もだだをこねて困らせて、肩を借りてゆっくり歩き始めて、やっと一人で歩けるようになったから、手をつないで引っ張られないで歩きたくなった。
行き先は二人で相談するんだよ。
けんかしたり、ゆずりあったりしながら。
でもね、まだまだ、一人歩き始めたばかりだから、時々、座り込んでしまうかもしれないんだ、そんな時は、いっしょに座って立ち上がるのを待って欲しいな。
立たせてもらったら、楽だし、簡単かもしれないけど、ゆっくり、大切に生きて行きたいから。
−−−−−−−−−−−−−−−−−
○○さん、○○さん、(中略)、ありがとう。
わたしね、このメールを読んだ時、泣いてしまった。
もちろんわたしは信じていた。
「信じるから傷つくんだよね、二度と誰も信じなければ二度と傷つかないよね。」とさとみが言っても。
たかしからのひどい(ほんとうにひどい)メールが来るたびに出会った最初の頃みたいに泣き続けていても。
「わたしなんて自己中でつまらない女だよ。だからきっとつださんはそのうちに他の女の人をもっと好きになるよ。」と自分を卑下していても。わたしのまわりの女性や過去の女性に嫉妬しても。
結婚当初の甘い想い出に浸って前に進むことができなくても。「たかしと戦うなんて、わたしにはできないよ。わたしが我慢すればすむことなんだよ。」と後ずさりしても。
ほんとうのさとみはそんな人じゃない。いま、深く傷ついて、痛みにもがいているからだよ、離婚届を出したその瞬間にさとみは変われるんだよ。
そう考え、そう言い続けてきた。「ほんと?ほんとにそうなの?」と言われても。
そしていま、さとみは「離婚が成立して、こんなに気分が変わるなんて思っていなかったよ。いま、わたし、自由なんだよね。みんな、どんどん、早く離婚したらいいのに。」
別の人みたいだよ。そうなると信じていたわたしでも目を瞠るくらいに。
さとみ。
よかったね。ほんとうによかったね。
嬉しいよ。
ものすごく嬉しいよ。
作品名:ひとつだけやりのこしたこと 作家名:つだみつぐ