ひとつだけやりのこしたこと
たとえばね 2009年03月03日 14時34分
たとえば、かりに
小学校4年生の女の子が千葉県市川市でお母さんと二人で暮らしていると想像してみて。
日曜の朝に起きてこないお母さんに、そうだ、今日はわたしが朝ご飯作ろう、だって、お母さん、毎晩遅くまで働いているんだから、って、スクランブルエッグとソーセージと、ブロッコリーとハムのサラダを作って、お母さん、起きて、ご飯だよ。
おまえが作ったの?
そうだよ。ほかに誰もいないでしょ。
いつ、こんなのができるようになったの?おいしい。すごくおいしい。
ねえ、今度の連休だけど、ディーズニーシー、行こうか?
ほんとう?
近いのに一度も行ってないものね、おまえが、行きたいのに、行きたいって言わないから、だからぜったい一緒に行こうって思ってたの。
おかあさん。
ねえ、考えてみて。
お母さんの首にこの少女が抱きつくとき、どんな気持ちだろうか。
たとえばね、母親の気が変わらないうちに喜びを表現しておいた方がいい、とか、こういう時はお礼を言うべきだとか、そう考えただろうか。
考えていない。
少女は、ただそうしたかったからお母さんに抱きついた。喜びを表現したんじゃない、先に行動があると思う。
涙があふれるのが、悲しみを感じるよりも前であることがあるように。
ねえ、さとみ。
1000kmを飛んでくるさとみをつださんはそんなふうに抱きしめたい。
なにも考えずに、つよく。
作品名:ひとつだけやりのこしたこと 作家名:つだみつぐ