赤いポルシェの女・・三人同時初体験
赤いポルシェの女・・三人同時初体験
夜来の雨が止み、山麓の夜が明けようとしていた。
厚い雲間から仄かに光がこぼれ、暗い樹林から霧がたちのぼる。霧は流れたり、拡散したり、ちぎれたり、その濃淡が薄明の世界を水墨画に仕上げていく。
山麓の一角に瀟洒な別荘があり、赤いポルシェが停まっていた。
淡い光に照らされた別荘の室内に目をこらすと、男であろうか、全裸の三人が転がっている。そこへ身支度を調えたらしい女が現れた。濃いアイシャドウ、赤いルージュ、身体に張り付いた赤いセーターと黒いパンツが肉感的である。
女は転がっている男たちをつま先で小突いて行った。よほど爆睡しているのだろう、誰も起きようとしない。すると、今度は足裏でグイと顔を踏みつけた。息を詰まらせた男たちが次々飛び起きた。どれも幼さの残る若者で、裸のまま呆然としている。
女はソファに腰掛けるとタバコを取り出した。目敏く若者が火をつけた。紫煙をくゆらせながら、女は切れ長な目を細めた。
「セックスって生命のリセットよね。自分と世界が一度死んでまた甦る。」
火をつけた若者が口を挟んだ。
「セックスって愛でしょ、相手と一体化するんじゃないですか?」
フフッ、女は口元を歪めた。
「君たち、一体化した?」
三人の若者は顔を見合わせた。女は続けた。
「セックスって砕けることよ、砕け散って宇宙と一体化すること。・・愛ってよく分からないわ。・・昨夜はアリガトウ。」
アリガトウと言われて、若者たちはひどく恐縮しているようだった。タバコを吸い終わると、女は真顔になった。
「私って変わっているの・・普通の子は愛が必要よ。絶対!」
赤いセーターの女と一糸まとわぬ三人の若者・・彼らに何があったのだろう。
一
若者たちが女と出会ったのは、半年前の夏の終わりであった。
彼らは日本海に面するT市の高校三年生で、夏休み講習を終えたばかりであった。地方都市に進学塾や予備校がなく、高校が予備校の役割を果たしている。彼らの高校も都会の高校生に負けじと、進学希望の三年生は全員夏期講習を受講しなければならなかった。入道雲の沸き立つ夏休み、祭り太鼓やプールの歓声を耳にしながら、教室の堅い机で朝7時から夜7時まで勉強するのは辛かった。
彼らは水泳部員で、6月末の大会で引退して水から遠ざかっていたから、泳ぎたくてウズウズしていた。講習が終わると矢も盾もたまらず、半島周遊サイクリングに出かけたのである。半島巡りをしながら、気に入ったところで野宿し、泳いだり潜ったりする二泊三日の旅だった。
二日目の昼過ぎであった。
夏の終わりの半島は浜辺もキャンプ場も閑散としていた。車の少ない周遊道路は彼らの絶好のサーキットになった。その時も下り坂でAが突然中央に飛び出したのである。後ろから来た赤い車が、キキッとハンドルを切って間一髪で掠めていった。危うく命拾いしたAは血の気が失せたが、他の者が「大丈夫?」と声をかけ、そのまま急坂を下っていった。先頭のSが叫んだ。
「ヤバイ!さっきの車だ。」
坂道の終点で赤い車が停まっていた。サングラスの女が大胆な白柄模様のワンピースを翻している。さっきの飛び出しを怒っているのだ。Aは素直に謝るしかないと思った。
「ゴメンナサイ、突然飛び出して・・」
女はおもむろにサングラスを外した。切れ長な目に睫毛が濃い。怒っている様子はなく、ハァ?と首を傾げた。
「この半島にT温泉があるらしいの、知らない?」
怒られると思っていたAはホッとした。
「スミマセン、僕らは地元じゃないんで、分からないんです。」
カーマニアのKはじっと車を見つめている。
「スゲエな~この車、ポルシェ911だぜ!」
Kが車に触れようとしたとき、運転席に戻った女がアクセルを噴かせた。
「足止めさせてゴメンね。バイバイ~」
ダッダダ~、赤いポルシェは轟音を立てて走り去った。Kは大声で叫んだ。
「オレもいつか、あんな車をゲットするぞ!」
それからどれくらい走ったであろうか。
夏の太陽が西に傾き、樹影が濃くなり出した頃である。彼らは周遊道路と林道が分岐する小さな空き地で休憩した。乾いた青空にポッカリ白雲が浮かび、群青の入り江をポンポンポン船が横切っていく。林道の入口で涼んでいたSが小さな案内板を発見した。
「これって、ポルシェのお姉さんが探していた温泉じゃないか?」
朽ちた木片に『秘湯T露天風呂→』と書いてある。Aはそんな名前だったと思い、Kはポルシェと聞いて色めき立った。しかし、車の女がこの案内板を見つけるのは不可能であろう。Sもたまたま発見したのである。
彼らは炎天下二日目のサイクリングで疲れていたし、汚れていた。秘湯までの距離が分からず不安だったが、日はまだ高く、この際露天風呂で汗を流すことになった。
杉木立の密集する林道は緩やかな登りが延々と続き、彼らは途中で自転車を押して歩いた。半時間は歩いたであろうか、杉林が終わると小さな滝があり、その流れに沿って下っていくとクヌギ林の中に小屋があった。微かに硫黄の匂いがする。ココだ!着いたぞ!服を脱ぐのももどかしく、彼らは露天風呂に突進した。
アッ!彼らは慌てて一物を隠した。女が湯浴みしていたのである。振り向いた女は何と!赤いポルシェの女であった。
「アラ!君たち、突っ立ってないで入ったら・・私はすぐ上がるから。」
彼らは喜んで飛び込んだが、アチッチ!跳び上がった。日焼けした肌に湯が染みる。女は大袈裟にはしゃぐ若者を面白そうに見つめた。
「君たち、高校生?」
「高三です。」Sが元気よく応えた。
「高校三年生か、イイな~これからだもんね。」
「それが勉強ばかりで、イマイチ実感ないんですけど。」Aがぼやいた。
「若い時は分からないものよ。・・三年でしょう、卒業したらどうするつもり?」
「一応、みんな進学する予定ですけど。昨日やっと補習が終わったんですよ。」SがYサインした。女は遠い眼差しになった。
「大学か、イイな~都会に住んで青春するんだ。バイトしたり、デートしたり、大人になっていく。高校の友達は大事にしてね。サイコーなんだから・・」
湯のぼせしたのだろう、うなじを赤らめた女が立ち上がった。
「お先に・・ゴメンナサイ」
火照った身体を小さなタオルで覆いながら、つややかに上気した女がスローモーションで過ぎていく。こぼれる上品な乳房、艶(なま)めかしい下腹部、しなやかな下半身、ピンクに染まった裸体から甘やかな匂いが漂う。オッ!彼らの一物は一斉に敬礼した。
着衣した女が帰ろうとしたとき、突然、Kがポルシェのことを思い出した。腰タオルで飛び出すK、二人も後を追いかけた。
「待って下さい。ポルシェはどこにあるんですか?」
女は小屋の裏手を指さした。追いかけながらKは続けた。
「あのポルシェ、お姉さんのですか?」
駐車場にまわった女は、赤いポルシェにもたれて応えた。
「そうよ、・・パパのだけど、私が乗り回しているの。」
スゲエ!Kが赤いボディに抱きついた。頬をすり寄せ、舐めんばかりである。
夜来の雨が止み、山麓の夜が明けようとしていた。
厚い雲間から仄かに光がこぼれ、暗い樹林から霧がたちのぼる。霧は流れたり、拡散したり、ちぎれたり、その濃淡が薄明の世界を水墨画に仕上げていく。
山麓の一角に瀟洒な別荘があり、赤いポルシェが停まっていた。
淡い光に照らされた別荘の室内に目をこらすと、男であろうか、全裸の三人が転がっている。そこへ身支度を調えたらしい女が現れた。濃いアイシャドウ、赤いルージュ、身体に張り付いた赤いセーターと黒いパンツが肉感的である。
女は転がっている男たちをつま先で小突いて行った。よほど爆睡しているのだろう、誰も起きようとしない。すると、今度は足裏でグイと顔を踏みつけた。息を詰まらせた男たちが次々飛び起きた。どれも幼さの残る若者で、裸のまま呆然としている。
女はソファに腰掛けるとタバコを取り出した。目敏く若者が火をつけた。紫煙をくゆらせながら、女は切れ長な目を細めた。
「セックスって生命のリセットよね。自分と世界が一度死んでまた甦る。」
火をつけた若者が口を挟んだ。
「セックスって愛でしょ、相手と一体化するんじゃないですか?」
フフッ、女は口元を歪めた。
「君たち、一体化した?」
三人の若者は顔を見合わせた。女は続けた。
「セックスって砕けることよ、砕け散って宇宙と一体化すること。・・愛ってよく分からないわ。・・昨夜はアリガトウ。」
アリガトウと言われて、若者たちはひどく恐縮しているようだった。タバコを吸い終わると、女は真顔になった。
「私って変わっているの・・普通の子は愛が必要よ。絶対!」
赤いセーターの女と一糸まとわぬ三人の若者・・彼らに何があったのだろう。
一
若者たちが女と出会ったのは、半年前の夏の終わりであった。
彼らは日本海に面するT市の高校三年生で、夏休み講習を終えたばかりであった。地方都市に進学塾や予備校がなく、高校が予備校の役割を果たしている。彼らの高校も都会の高校生に負けじと、進学希望の三年生は全員夏期講習を受講しなければならなかった。入道雲の沸き立つ夏休み、祭り太鼓やプールの歓声を耳にしながら、教室の堅い机で朝7時から夜7時まで勉強するのは辛かった。
彼らは水泳部員で、6月末の大会で引退して水から遠ざかっていたから、泳ぎたくてウズウズしていた。講習が終わると矢も盾もたまらず、半島周遊サイクリングに出かけたのである。半島巡りをしながら、気に入ったところで野宿し、泳いだり潜ったりする二泊三日の旅だった。
二日目の昼過ぎであった。
夏の終わりの半島は浜辺もキャンプ場も閑散としていた。車の少ない周遊道路は彼らの絶好のサーキットになった。その時も下り坂でAが突然中央に飛び出したのである。後ろから来た赤い車が、キキッとハンドルを切って間一髪で掠めていった。危うく命拾いしたAは血の気が失せたが、他の者が「大丈夫?」と声をかけ、そのまま急坂を下っていった。先頭のSが叫んだ。
「ヤバイ!さっきの車だ。」
坂道の終点で赤い車が停まっていた。サングラスの女が大胆な白柄模様のワンピースを翻している。さっきの飛び出しを怒っているのだ。Aは素直に謝るしかないと思った。
「ゴメンナサイ、突然飛び出して・・」
女はおもむろにサングラスを外した。切れ長な目に睫毛が濃い。怒っている様子はなく、ハァ?と首を傾げた。
「この半島にT温泉があるらしいの、知らない?」
怒られると思っていたAはホッとした。
「スミマセン、僕らは地元じゃないんで、分からないんです。」
カーマニアのKはじっと車を見つめている。
「スゲエな~この車、ポルシェ911だぜ!」
Kが車に触れようとしたとき、運転席に戻った女がアクセルを噴かせた。
「足止めさせてゴメンね。バイバイ~」
ダッダダ~、赤いポルシェは轟音を立てて走り去った。Kは大声で叫んだ。
「オレもいつか、あんな車をゲットするぞ!」
それからどれくらい走ったであろうか。
夏の太陽が西に傾き、樹影が濃くなり出した頃である。彼らは周遊道路と林道が分岐する小さな空き地で休憩した。乾いた青空にポッカリ白雲が浮かび、群青の入り江をポンポンポン船が横切っていく。林道の入口で涼んでいたSが小さな案内板を発見した。
「これって、ポルシェのお姉さんが探していた温泉じゃないか?」
朽ちた木片に『秘湯T露天風呂→』と書いてある。Aはそんな名前だったと思い、Kはポルシェと聞いて色めき立った。しかし、車の女がこの案内板を見つけるのは不可能であろう。Sもたまたま発見したのである。
彼らは炎天下二日目のサイクリングで疲れていたし、汚れていた。秘湯までの距離が分からず不安だったが、日はまだ高く、この際露天風呂で汗を流すことになった。
杉木立の密集する林道は緩やかな登りが延々と続き、彼らは途中で自転車を押して歩いた。半時間は歩いたであろうか、杉林が終わると小さな滝があり、その流れに沿って下っていくとクヌギ林の中に小屋があった。微かに硫黄の匂いがする。ココだ!着いたぞ!服を脱ぐのももどかしく、彼らは露天風呂に突進した。
アッ!彼らは慌てて一物を隠した。女が湯浴みしていたのである。振り向いた女は何と!赤いポルシェの女であった。
「アラ!君たち、突っ立ってないで入ったら・・私はすぐ上がるから。」
彼らは喜んで飛び込んだが、アチッチ!跳び上がった。日焼けした肌に湯が染みる。女は大袈裟にはしゃぐ若者を面白そうに見つめた。
「君たち、高校生?」
「高三です。」Sが元気よく応えた。
「高校三年生か、イイな~これからだもんね。」
「それが勉強ばかりで、イマイチ実感ないんですけど。」Aがぼやいた。
「若い時は分からないものよ。・・三年でしょう、卒業したらどうするつもり?」
「一応、みんな進学する予定ですけど。昨日やっと補習が終わったんですよ。」SがYサインした。女は遠い眼差しになった。
「大学か、イイな~都会に住んで青春するんだ。バイトしたり、デートしたり、大人になっていく。高校の友達は大事にしてね。サイコーなんだから・・」
湯のぼせしたのだろう、うなじを赤らめた女が立ち上がった。
「お先に・・ゴメンナサイ」
火照った身体を小さなタオルで覆いながら、つややかに上気した女がスローモーションで過ぎていく。こぼれる上品な乳房、艶(なま)めかしい下腹部、しなやかな下半身、ピンクに染まった裸体から甘やかな匂いが漂う。オッ!彼らの一物は一斉に敬礼した。
着衣した女が帰ろうとしたとき、突然、Kがポルシェのことを思い出した。腰タオルで飛び出すK、二人も後を追いかけた。
「待って下さい。ポルシェはどこにあるんですか?」
女は小屋の裏手を指さした。追いかけながらKは続けた。
「あのポルシェ、お姉さんのですか?」
駐車場にまわった女は、赤いポルシェにもたれて応えた。
「そうよ、・・パパのだけど、私が乗り回しているの。」
スゲエ!Kが赤いボディに抱きついた。頬をすり寄せ、舐めんばかりである。
作品名:赤いポルシェの女・・三人同時初体験 作家名:カンノ