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他人行儀じゃない他人的関係  後編 屋情

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あの日から幾月がたち、少し肌寒さを感じるような季節になっていた。
 放課後いつものように部活にいこうとしていた俺だったが、
「今日部活ないよ」
 友人の一言により手持ち無沙汰の暇人になってしまったので、なんとなく暇を持て余し、学校を探検していた。
 部活で殆どの人は教室の中にはいなく、更に残って勉強や雑談に精をだす奴らも珍しくいなく、暮れ始めた夕陽の赤い光が窓から差し込み照らす廊下を一人歩いていた。 
 最上階である四階のせいか、グランドで部活に勤しむ若人達の声も聞こえなく静かであった。
「こういうのも趣があってたまには良いかもな」
 様々な情報が繁雑する今日、荒波に呑まれ続けるだけではなく、一時心を休める事が大切だと思う。
 じっちゃんが昔そう言っていた気がする。
 しみじみと心を落ち着かせ、耳をすましていると何処からか歌う声が聴こえてきた。
 透き通るような、ちょっとしたことで砕けてしまう薄ガラスのような声が、穏やかで美しいメロディを歌っていた。
(カントリーロードじゃないのは残念だけど、なかなか良いBGMじゃん)
 手放しで上手いと言えるものではなかったが、この状況にマッチ(歌手でも火を起こす物でもない方の)していた。
 もしヘビメタとかだったらぶちギレてたと思うがな。 
 少しの間その歌を堪能していた俺は、
(それじゃあ、このBGMの立役者さんに一言あいさつでもしておきますか)
 と面白全部に考え、歌に導かれるように歩を進めた。
 するとこの歌声は屋上からしていることに気づいた。
(屋上とはなかなか良いじゃないか。三割増しだよ)
 階段をゆっくりと上がり、屋上への扉を開いた。
 この季節特有の風が、俺を歓迎するかのように頬を撫でるように通り抜けていった。
 BGMを演出していた奴は、危険防止のために備え付けられた、俺の胸あたりまであるフェンスに外側を向き座っていた。
 ほんの少し前のめりになったら、そのまま『I CAN FLY』してしまいそうだった。
「アンタ何やってんだ?」
 俺はこの前と同じようにその女に声をかけた。
 女は歌うことを止め、こちらに少しだけ顔を向けただけですぐに戻した。
 俺はゆっくりと、女から三人分ぐらい離れたフェンスにもたれかかった。
 フェンスの向こう側はほんの少し数センチの足場があるだけで、遥か下にグランドを見ることができた。
「自殺しようとしているの。または地球の重力さんによる他殺かな?」
 等と女は意味分からないことを供述しています。
 おそらく飛び降り自殺をしようとしているようです。
「そうなのかー」
「あまり驚いていないみたいね。自殺するわけがないとでも思っているのかしら?」
 女はこちらのほうを向き、不服そうに言ったように思えた。
「じゃあなんだ、最高にクールだぜ! とかハイカラだね、とでも言ってほしいのか?」
「そういうわけじゃないわ」
「俺も実際言うと結構驚いているけど、アンタのその状況がなるほどねと思ったからかな。前みたいに、その状況にいる意味が分からないわけじゃない」
「ふぅーん。そんなもんかしらね」
 女は視線を上にあげた。
 空を見るかのように見えるが、もっと別な物を見ているかのよ思えた。
 それが何かについて詮索する気も知りたい気もしなかったが。
「――それであなたはなんで、こんなところにいるの?」
 ふと思い出したかのように視線を俺に向け、女は聞いてきた。
「あんたの歌が聞こえてきたからなんとなくだな」
「へえーそう。私がセイレーンとかじゃなくて良かったわね」
「そんなには上手くなかったがな」
「そんなにはということは、上手かったは上手かったってこと?」
 意地悪をするように女は聞いた。
「否定はしねえよ」
「歌は特に自信があったというわけではないけど、なかなかにうれしいものね」
「そうか。それでさ、なんの歌を歌ってたんだ? 聞いたことがなかったんだが」
「なんかのゲームの曲だと思うけど。 よくは知らないわ それともAIRの鳥の詩の方がよかった?」
「まじ国歌(読み方はくにうた)」
「まあ私はカノンぐらいしかまともに知らないんだけどね」
「俺はそういうゲームはやったことないからなぁ……」
 二人の間に少しの空白が流れる。
「……あんた、なんで自殺しようとしてんだ? いじめられてでもいるのか?」
 深いところまで知ろうとはしない野次馬のような興味で、俺は聞いた。
「なんでねえー。なんというか生きる理由がないし、それに死なない理由もないからかな」
 等とのたまう女の心情を理解する気はないけど、理解しようと思って理解できるとも思えなかった。
 俺は自殺したいと考えたことがないわけではない。
 二、三回、軽いのも含めると十回ほど考えたことはある。
 だけど実行はしていない、していたらここにはいないはずだけれども。
 自殺を考えてしまったのは、部活で失敗したなど弱いけど一応は理由となるものだと思う。
 だけど、この女のような、意味不明な理由で自殺を考えたことはないし、そういう考えで自殺をしようとする奴の気持ちはわからない。
 前回の時点で理解できないとわかっていたけどな。
 例えるのならば、某そげぶさんが女心を理解するぐらいに不可能だ。
「それであなたは私に情でも湧いて、自殺を止めようとするのかしら?」
 女は何か期待するように言うが、俺は、
「別に。ほとんど初対面の赤の他人に情なんか湧くわけねえだろ」
 と冷たく言い放った。
「そう残念ね」
 そんなことを残念じゃなさそうな表情でいい、そのまま流れるように、女は前、つまり遥か下にあるグランドにダイブするかのように体重を移動させた。
「おりゃ!」
 俺は有無を言わせずに、その女の首根っこを掴み、無理やりフェンスから引き摺り下ろした。
「きゃ!」
 女はそのままフェンスから落ち、強かに膝などを打っていた。
「……けっこう痛いわ」
 膝が少し赤くなっていたが、あまり気にしない方向で。
「すまんな。女の子を引き摺り下ろす経験がなくてうまくいかんかった」
「そんな経験がある方が珍しいわよ」
 膝についた微量の砂を払って女は言った。
「――それで、なんで私の自殺を止めたのかしら?」
 女は問い詰めるように、それでいて俺の答えを楽しみにしているかのような声色で言った。
 そうきたかとでも言いそうだ。
「さっきも言ったが、別にアンタに情が湧いたとかじゃねえよ。言っちまえば、赤の他人であるアンタが勝手に自殺して集会とかがおこっても、俺は多分悲しんだりしないと思うし、授業がなくなってラッキーとまで思うかも知れない。不謹慎だけどな」
「だったらなんで止めたのかしら?」
「俺にも感情はあるからよ。ただ単純に目の前で死なれんのは気分が悪いだけだよ」
「それは随分と自分勝手な理由ね」
「自殺を止める理由なんて、結局自分勝手しかないだろ。もし俺の友達が自殺をしようとしたら、俺は全力でそれを止めようとするが、それだってソイツがいなくなると悲しいとかの勝手な理由だろ」
「極論だけど、なるほどね」
 女は納得するように頷いた。
「それに――」
「?」
 いろいろと論じてみたけど、どちらというとそれはメインではない。