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奥野沙知子
奥野沙知子
novelistID. 41066
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あの日にかえりたい~第三章 現実逃避の街

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見れずに、喋る。


"でも、そのまま離れ離れになって…

まさか、こうなるなんて
あの時は思わなかったけど、
今はもう、秀人が遠すぎる"

隣で、しみちゃんが頷く
気配がした。

私は大きく息を吐いた。



"私、けじめつけたくて
ここに来たねん。

多分最初からもう、
諦めるつもりやった"

自分の言葉に自分が反応する。

これが、たぶん
私の本当の気持ちなんだろう。



"諦める、…か。

サヨちゃんは、
結果的にそれでよかったん?"

しみちゃんの探るような問いかけ。
なぜか、不思議と迷わなかった。


"うん、よかったかな"

私はまっすぐ前を見て
そう答えた。


しみちゃんが、笑う。

"ほぉか。ほんならええやん。
大丈夫やて、サヨちゃん、
ええ男はいくらでもおるて"


しみちゃんの笑顔は明るい。
見てると元気をもらう。

"ふふ…そうやね"


見慣れない場所で
車がゆっくりととまった。


"ほら、着いたで。
ここちゃうの"

気づけば、私の来たかった
カフェの真ん前だ。


"あ、うん、ここ。
さっすが、しみちゃん。有難う"

うながされて私は
急いで車から降りた。

窓越しに
しみちゃんにお礼をいう。


"しみちゃん、ほんまに有難う。
なんか元気にでた"


"おう!"
しみちゃんが手をあげる。


ちょっと遠いその手に、
私はハイタッチをした。



"また会おうね!"

"おぅ、またこっちおいでや"

目の中が見えなくなるくらい
目を細めて、笑顔を作るしみちゃん。

その笑顔のまま、車を走らせる。



"しみちゃん、ちゃんと目あけて
運転して"

そう、私に突っ込まれながらも、
しみちゃんは線でかけそうな
笑顔のままだ。



"ほんっまに…"

少し心配になって

交差点を曲がるまでの間ずっと、
私は黒のハイエースを
見送るはめになった。