短編読みきり小説~学業の秀でる人格障害と診断されました~
~学業が秀でるタイプの人格障害と、診断されました~
東大を主席で卒業した。卒業後、父と母の勧め通り、正確にいえば、子供の頃から言われて通り、外務省の官僚として務めた。父は大学の講師、日本文学を教えている。よく小学校の頃から日本文学を読まされた。母は生まれてこのかた、就職をしたことがない。パートすら。母が40の時、私が生まれ、私は英明と名付けられた。
子供の頃から勉強ざんまいだった。
「秀ちゃん。紅茶が入ったわよ」「秀ちゃん。今回の中間テストの結果今日出たんでしょう?」
「秀ちゃん。帰りが遅かったわね。いつもより7分遅いわよ。どうしちゃったのママ心配したわ」
学校ではいつも成績トップ。東大を現役で合格し、首席で卒業した。しかし官僚に入っても、友達はいなかった。誰とも口を聞く機会はなかった。
今は全く。
大学も合格し、就職してしまうと生きている意味が却って分からなくなっていった。
自己啓発書を読んでも奮い立つことはなく、
“ああ。自分は世の中から否定される人間なんだな”そう思うだけだった。
自殺するにも死ぬ力すらなかった。自分が世の中にいてもいなくても、その違いが大して分からない。ただ、今の生活のまま、何の楽しみもあてもなく生きている。
今日は仕事の帰り自分にしては珍しく渋谷の駅で降り、街を歩いた。皆おしゃれをしながら、目が輝いている。缶ビールを買ってガード下で立ち止まりながら、飲んで考えていた。
“死ぬ気になりゃなんだってできる。よくそう言うが、死ぬ気になって、自分は何ができるんだ。努力だけは人一倍してきたが、その死ぬ気になっての何かがしてみたい。
自分が誰かの為に…
先程からガードしたで胡散臭い男と、発育のいい若い女が話している。
耳をそばだてて話を聞いてみると、アダルトビデオの女優の勧誘だ。むこうは芸能界の繋がりを持っていると強調している。そんなの嘘だ。しばらく話が続き男と女が別れた。女は「ありがとう、近々絶対連絡します。」そう言っている。死ぬ気になりゃ…酔っていたこともあり私は今までの私に無い勇気でその女に話しかけた。
「あのすいません」
「…」向こうは無言で私の方を振り向いた。
「あの、先程の男性のことですが、あの手の勧誘は芸能界の繋がりとか大概が嘘です。本で読んだことがあります。ただひとりの女性を不幸にし、なんの責任も取りません。離れたほうがいいと思います。」
「ああ。そう、それもそうね。まっ、怪しかったし、じゃあ離れるわ」
「良かった。余計なお世話をしてすいません。では。」
「ちょっと待ってよあんた。ご飯食べていかない?お礼するわ。嫌ならいいけど。」
「いえ。嫌なんてことは。もちろん嬉しいです。私のようなものと食事をして戴ける女性がいるなんて。なんか申し訳ない。ただお代は、私が出します。厚かましくも私から声をかけたのですから。」
「あら悪いわね。食事まで出してくれるの?じゃあそこのタイ料理屋。シンハーが飲みたいわ。」
私達は店に入った。ぎこちない私は食事をしながらこう言った。
「あのなんといいますか、初対面の女性とお食事をするのですから、最低限のマナーとして、自己紹介でもしたほうがいいと思いまして、私からでよろしいですか?」
「ああ、自己紹介ね」
「先ず、私の名前は野田秀明。あの私は決して怪しいものではなく、ただ性格としては、かなり内向的な面がありまして、内向的と言っても決してその反動で何か攻撃的な面が出てくるというわけではなく、普段も職場で腰が低く…まあ弱い人間と見るものも当然いますでしょうが、でも弱い強いといいましても例えば争いを好まず、むしろ隣の国との和解のためにコツコツ橋を作るタイプがいたとして、もう一方は武力で戦い、まず自分の国の主張を聞いてもらうタイプがいるとします。でコツコツ橋をかけるタイプと、武力で解決するタイプに関しても、どちらが強いかと言われたら、まず、強さの定義付けをしなくてはいけなくて…」
「で、大学どこでてんの?」彼女は私の話を遮って聞いてきた。
「えっ、大学?まあ東大ですけど。」
「そこでも結構成績良かった方だったの?」
「ええ。まあ、一応主席で卒業しました。」
彼女は少しびっくりして、目をパッチリ開けてしばらく黙ったあと、口をおさえて笑い出した。
「あなたって面白いわね。」
「えっ。面白いですか?そうですか。でも嬉しいですね。笑ってお食事ができるなんて。そうですか。私面白いですか。」
「ねえ。あんた。結構頭いいみたいだから何かすごい経歴ない?例えば、高校のとき、ドイツ語で物理の勉強したとか。そういうやつ。なんかあんでしょ?」
「えっ、まあ語学は日常会話程度なら8ヶ国語話せるのと、理数系でしたら、インドの微分積分に興味を持ちまして、PCで人口知能の仕組みをプログラミングしたり」
「そう。すごいわね。私の名前は椎名さとみ。私は何も紹介することなんかないわ。平凡に育ってでも母子家庭で、なんか全然踏ん張りが効かなくて。さっきの男も怪しいと思ったけど、まあ変な方向になったらなったでいいかなって投げやりで、ただ父が子供の頃、ドメスティックバイオレンスがあったらしくて離婚して、その部分の記憶もあるようでなくて、社会に全然適応出来なくて…」
私達は食事を終え渋谷の街で別れることになった。
別れ際私は、
「すいません。一つだけ頼みがあります。もう一度私と会ってください。一ヶ月後、またこのガードしたで、8月8日の夜、7時頃、会ってください。お願いします。あなたと話がしたいです。」
「いいわよ。どうせ童貞なんでしょ?一ヶ月後。じゃあ秀君て呼んでいい?アドレス交換は?」
「一ヶ月後あってからアドレス交換しましょう。それからの事は一ヶ月後決めましょう」
「うん。分かった。一ヶ月後楽しみにしてるわ」
私たちは別れた。
私は一ヶ月間ひたすら心理学、カウンセリング実践、カウンセリングのケース、臨床心理の現場、そういった本を読みあさった。つてをもとに、東大の医学部の講師にあって色々質問をした。
“乖離性同一障害”
これかな。そう思った。私はそれに関する本を読みあさり、一ヶ月が経ち彼女に会いに行った。約束の時間に彼女はいた。
「来てくれてありがとう。椎名さんの事。この一ヶ月ずっと考えていたよ」
「ありがと。私も秀君のこと考えてたよ」
そう言って今度はベトナム料理屋に入った。
「この一ヶ月ずっと本を読みあさってね。臨床心理学やカウンセリングに関する本。卒論の時より頑張ったよ」
「えっ?何冊位読んだの?」
「まあ50冊位読んだかな。一冊の内容が濃くてね」
彼女は驚いていた。
「椎名さんと話がしたいです。まずいろいろ連想についてのデータを取らせてください。例えば私が白といったらそれに対して黒。家といったら木と言った様な」
「いいわよ」
「次に椎名さんの嫌な場所とか。時間とか。調子が狂ってしまう何かについて話してください」
「うん」
私は彼女から情報を聴きとった。彼女の口からは今までなかったが、彼女は子供の頃、父から性的虐待を受けていると疑わずにいられなかった。
東大を主席で卒業した。卒業後、父と母の勧め通り、正確にいえば、子供の頃から言われて通り、外務省の官僚として務めた。父は大学の講師、日本文学を教えている。よく小学校の頃から日本文学を読まされた。母は生まれてこのかた、就職をしたことがない。パートすら。母が40の時、私が生まれ、私は英明と名付けられた。
子供の頃から勉強ざんまいだった。
「秀ちゃん。紅茶が入ったわよ」「秀ちゃん。今回の中間テストの結果今日出たんでしょう?」
「秀ちゃん。帰りが遅かったわね。いつもより7分遅いわよ。どうしちゃったのママ心配したわ」
学校ではいつも成績トップ。東大を現役で合格し、首席で卒業した。しかし官僚に入っても、友達はいなかった。誰とも口を聞く機会はなかった。
今は全く。
大学も合格し、就職してしまうと生きている意味が却って分からなくなっていった。
自己啓発書を読んでも奮い立つことはなく、
“ああ。自分は世の中から否定される人間なんだな”そう思うだけだった。
自殺するにも死ぬ力すらなかった。自分が世の中にいてもいなくても、その違いが大して分からない。ただ、今の生活のまま、何の楽しみもあてもなく生きている。
今日は仕事の帰り自分にしては珍しく渋谷の駅で降り、街を歩いた。皆おしゃれをしながら、目が輝いている。缶ビールを買ってガード下で立ち止まりながら、飲んで考えていた。
“死ぬ気になりゃなんだってできる。よくそう言うが、死ぬ気になって、自分は何ができるんだ。努力だけは人一倍してきたが、その死ぬ気になっての何かがしてみたい。
自分が誰かの為に…
先程からガードしたで胡散臭い男と、発育のいい若い女が話している。
耳をそばだてて話を聞いてみると、アダルトビデオの女優の勧誘だ。むこうは芸能界の繋がりを持っていると強調している。そんなの嘘だ。しばらく話が続き男と女が別れた。女は「ありがとう、近々絶対連絡します。」そう言っている。死ぬ気になりゃ…酔っていたこともあり私は今までの私に無い勇気でその女に話しかけた。
「あのすいません」
「…」向こうは無言で私の方を振り向いた。
「あの、先程の男性のことですが、あの手の勧誘は芸能界の繋がりとか大概が嘘です。本で読んだことがあります。ただひとりの女性を不幸にし、なんの責任も取りません。離れたほうがいいと思います。」
「ああ。そう、それもそうね。まっ、怪しかったし、じゃあ離れるわ」
「良かった。余計なお世話をしてすいません。では。」
「ちょっと待ってよあんた。ご飯食べていかない?お礼するわ。嫌ならいいけど。」
「いえ。嫌なんてことは。もちろん嬉しいです。私のようなものと食事をして戴ける女性がいるなんて。なんか申し訳ない。ただお代は、私が出します。厚かましくも私から声をかけたのですから。」
「あら悪いわね。食事まで出してくれるの?じゃあそこのタイ料理屋。シンハーが飲みたいわ。」
私達は店に入った。ぎこちない私は食事をしながらこう言った。
「あのなんといいますか、初対面の女性とお食事をするのですから、最低限のマナーとして、自己紹介でもしたほうがいいと思いまして、私からでよろしいですか?」
「ああ、自己紹介ね」
「先ず、私の名前は野田秀明。あの私は決して怪しいものではなく、ただ性格としては、かなり内向的な面がありまして、内向的と言っても決してその反動で何か攻撃的な面が出てくるというわけではなく、普段も職場で腰が低く…まあ弱い人間と見るものも当然いますでしょうが、でも弱い強いといいましても例えば争いを好まず、むしろ隣の国との和解のためにコツコツ橋を作るタイプがいたとして、もう一方は武力で戦い、まず自分の国の主張を聞いてもらうタイプがいるとします。でコツコツ橋をかけるタイプと、武力で解決するタイプに関しても、どちらが強いかと言われたら、まず、強さの定義付けをしなくてはいけなくて…」
「で、大学どこでてんの?」彼女は私の話を遮って聞いてきた。
「えっ、大学?まあ東大ですけど。」
「そこでも結構成績良かった方だったの?」
「ええ。まあ、一応主席で卒業しました。」
彼女は少しびっくりして、目をパッチリ開けてしばらく黙ったあと、口をおさえて笑い出した。
「あなたって面白いわね。」
「えっ。面白いですか?そうですか。でも嬉しいですね。笑ってお食事ができるなんて。そうですか。私面白いですか。」
「ねえ。あんた。結構頭いいみたいだから何かすごい経歴ない?例えば、高校のとき、ドイツ語で物理の勉強したとか。そういうやつ。なんかあんでしょ?」
「えっ、まあ語学は日常会話程度なら8ヶ国語話せるのと、理数系でしたら、インドの微分積分に興味を持ちまして、PCで人口知能の仕組みをプログラミングしたり」
「そう。すごいわね。私の名前は椎名さとみ。私は何も紹介することなんかないわ。平凡に育ってでも母子家庭で、なんか全然踏ん張りが効かなくて。さっきの男も怪しいと思ったけど、まあ変な方向になったらなったでいいかなって投げやりで、ただ父が子供の頃、ドメスティックバイオレンスがあったらしくて離婚して、その部分の記憶もあるようでなくて、社会に全然適応出来なくて…」
私達は食事を終え渋谷の街で別れることになった。
別れ際私は、
「すいません。一つだけ頼みがあります。もう一度私と会ってください。一ヶ月後、またこのガードしたで、8月8日の夜、7時頃、会ってください。お願いします。あなたと話がしたいです。」
「いいわよ。どうせ童貞なんでしょ?一ヶ月後。じゃあ秀君て呼んでいい?アドレス交換は?」
「一ヶ月後あってからアドレス交換しましょう。それからの事は一ヶ月後決めましょう」
「うん。分かった。一ヶ月後楽しみにしてるわ」
私たちは別れた。
私は一ヶ月間ひたすら心理学、カウンセリング実践、カウンセリングのケース、臨床心理の現場、そういった本を読みあさった。つてをもとに、東大の医学部の講師にあって色々質問をした。
“乖離性同一障害”
これかな。そう思った。私はそれに関する本を読みあさり、一ヶ月が経ち彼女に会いに行った。約束の時間に彼女はいた。
「来てくれてありがとう。椎名さんの事。この一ヶ月ずっと考えていたよ」
「ありがと。私も秀君のこと考えてたよ」
そう言って今度はベトナム料理屋に入った。
「この一ヶ月ずっと本を読みあさってね。臨床心理学やカウンセリングに関する本。卒論の時より頑張ったよ」
「えっ?何冊位読んだの?」
「まあ50冊位読んだかな。一冊の内容が濃くてね」
彼女は驚いていた。
「椎名さんと話がしたいです。まずいろいろ連想についてのデータを取らせてください。例えば私が白といったらそれに対して黒。家といったら木と言った様な」
「いいわよ」
「次に椎名さんの嫌な場所とか。時間とか。調子が狂ってしまう何かについて話してください」
「うん」
私は彼女から情報を聴きとった。彼女の口からは今までなかったが、彼女は子供の頃、父から性的虐待を受けていると疑わずにいられなかった。
作品名:短編読みきり小説~学業の秀でる人格障害と診断されました~ 作家名:松橋健一