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二人の王女(4)

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前回までのあらすじ。

見知らぬ異国に足を踏み入れてしまったあすか。そこで目にしたのは、どこまでも続く森だった。
人の姿を探し歩き彷徨っていると、突然精霊と名乗る奇妙な生体と蜂合わせる。
精霊に襲われそうになったあすかは助けを求め逃げているときに、偶然蜂合わせた三人の騎士によって助けられる。その一人は、同じ容姿を持った王女・マルグリットだった。
話し合いの末、あすかはその一行の旅を共にすることになった…





                       4



 人の棲まない地で、人を想って人の身体を欲する精霊たち
 森にこだまするのは、美しい鳥のさえずりでもなければ、
 風に揺れるやさしい葉の囁きでもない
 それは、人間と人間になりきれない者たちが分かたれた時代





 馬に揺られ、見たこともない土地の風景が過ぎていくのを見ていると、これが夢であることを忘れてしまう。むしろ、あすかはこれが本当に夢なのだろうかと疑い始めてさえいた。感覚が、あまりにも現実世界のものと変わらなさ過ぎる。
 マルグリットは、一夜を過ごす場所として、再びあの精霊らが居たような森を前にした、石が積み上げられた崖の麓の洞窟を選んだ。しかし、洞窟の中には入らず、洞窟の前に馬たちを休ませ火を焚いた。
「ねぇ、マルグリット王女」
 あすかがそう云うと、「マルグリットでいい」と、マルグリットは頬を緩めて云った。
「じゃぁ、マルグリット、あの森にはまた精霊がいるんじゃないの?そんな前で一夜を過ごして、また襲われない?」
 あすかは、あの恐ろしい体験を思い起こして云った。また精霊に追い掛けられるのは真っ平だった。
「大丈夫だ、精霊たちもここまでは来はしない」
 マルグリットは静かに云った。
 あすかは、ずっと疑問に思っていたことを口に出した。
「ねぇ、精霊って人を襲うものなの?」
 あすかがそれまで読んできた童話に出てくる精霊は、自分が宿るその風物を守る神聖なものばかりだった。ときには、主人公らを導いたり、助けたりしてくれる。しかし、あすかが出会った精霊は、そのイメージとは程遠かった。
 三人は顔を見合わせると、堪えかねたように笑った。あすかは、三人が笑う理由を解せず、首を傾げた。
 最初に口を開いたのはアークだった。
「アスカは本当にこの世界を知らない者なのだな」
作品名:二人の王女(4) 作家名:紅月一花