醜い男とカガミの旅
「ああ、できるとも。簡単なことさ」
シルクハットの男は笑って頷きました。その言葉を聞いた醜い男がもう一人の醜い男を見ると、彼は醜い顔をみっともなく歪めてとてもうれしそうに笑っていました。なんともいえないおぞましい表情をしていますが、あれがきっと彼の笑顔なのでしょう。
「といってもわたしは医者ではないからね、声を出せるようにしてやることはできない。ただしわたしの友人が手紙を届けてくれるそうだよ。君の友人から、君へ宛てた手紙をね」
「なんだと、それは本当か。なんて素敵なことだろう。俺は文字など読めやしないが、それでもこんな素晴らしいことはない。だって俺は今までただの一度だって手紙というものをもらったことがないんだから!」
醜い男は飛び上がって喜びました。もう一人の醜い男も一緒に喜んでくれています。
「でもね、手紙が届くには少しばかり時間がかかる。そうだね、ちょうどそこの角を曲がってぐるっとこの町を一周して、またここへ戻ってくる頃には届いているだろう。届いたら雪で濡れないところに置いておくからね、まずはその友達とぐるっと一周してくるといい」
「わかったよ。ありがとう。本当にありがとう。このご恩は一生忘れないと誓うよ」
「そんなに感謝しなくていいとも。さあ、早くぐるっと一周してくるといい。ぼんやりしていたらクリスマスが終わっちまうよ」
「ああ、そうしよう。早速ぐるっと一周してくるよ」
醜い男は大喜びでいそいそと歩き出そうとしましたが、ふと気が付いてシルクハットの男を振り返りました。
「そうだ、最後にお前さんの名前を聞かせてくれやしないか。俺たちの恩人の名前だ」
「わたしの名前かい?」
醜い男が訪ねるとシルクハットの男はにやりと口の端を持ち上げて笑いました。
「俺は詐欺師だよ。大した稼ぎじゃなかったがクリスマスに稼ぎがゼロじゃつまらんからな。稼がせてくれてありがとうよ」
「そうか。サギシさんというのか。どうもありがとうサギシさん。また会えたらその時はきっと倍の銅貨を払うよ」
醜い男が彼の手を握ろうとするとシルクハットの男はやんわりと断り、かわりに自分のシルクハットを外して優雅にお辞儀をしました。
「さようなら。醜くて哀れな人よ。詐欺師のプライドにかけて手紙はちゃんと届けるから、どうか安心してくれたまえ」
そしてこうも付け加えます。
「種明かしは一番最後、別れた後にするのがわたしの流儀なのでね。もっとも君じゃ理解できるか怪しいが」
シルクハットの男はまた頭にシルクハットを被ると醜い男たちをもう行くように促しました。醜い男は狭くて平べったいものをよいしょと抱え上げ、なんども途中で振り返ってお辞儀をしては雪の道を歩いていきました。言われた通り角を曲がって、これからぐるっと町を一周してくるのです。
「なあ友達よ。よくわからんがクリスマスっていうのはどうやら大層素敵なものらしいよ。お前さんに会えたし、俺は下以外を見て歩くのもこんなにいろいろな人と話すのも、生まれて初めてだったんだ。今日はなんて素敵な日だろう」
醜い男は白い雪の降る空を見上げて言いました。町中に積もった雪が家の中から溢れる光や街灯に照らされて、まるで町中が光っているかのようです。きっとこれがクリスマスというものなのでしょう。醜い男は今までにないくらいの幸せに満たされていました。凍えるような寒さも、朝から何も食べていない空腹も、今はちっとも気になりません。
「楽しみだなあ。お前さんから手紙をもらったら、今度は文字の読める人を探そうか。その後は何をしよう。お前さんと一緒なら、きっと何をしたって楽しいに決まっている。なあ、そうだろう? 友達よ、メリークリスマス!」
誰もいないクリスマスの雪の通りに醜い男の声が響き渡りました。隣で並んで歩くように担がれたもう一人の醜い男もとてもとても幸せそうに笑って口をパクパクとさせています。
醜い男は初めてできた友達と連れだって、雪の降る道をいつまでも歩き続けました。