小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

Alice in strangeland.

INDEX|1ページ/3ページ|

次のページ
 

Prologue:デイドリームオブスリーデイズ

FirstDay.




そいつが初めて現れたのは、腹も膨れてうとうととまどろみ始めた5時間目の半ば頃だった。
その日は水曜日。週半ばのけだるさが身体を包んでいることもあって、教師の声を子守唄にあと少しで穏やかな眠りへと突入できそう、そんな時間帯の話。


***
午後から日本史の授業なんて、だるくてやってられない。常々そう思っている俺は、いつものように肘をついて軽く俯き、ウトウトと舟をこいでいた。
天気は雲ひとつない秋晴れ。教室内の気温もまどろむにはちょうどいい。
先生の声や黒板を叩くチョークの音が徐々に遠くなり、待望の眠りの淵に落ちそうになったその矢先。

「まったく、よく寝る子だな」

突如として蛍光灯の薄明りを遮って俺の上に落ちた影に、うたた寝がばれたのかと慌てて顔を上げた。しかし、そこにあると思った教師の顔はない。代わりに質のよさそうな真っ黒い生地と金色のボタンが俺の視界を占めていた。

「おお?起きた?」

遥か上空から声がする。反射的に声の主を追って顔を上へと向けると、ハニーブラウンの瞳と目が合った。

「やあアリス、12年3カ月24日と2時間56秒ぶりか。ご機嫌いかが」

いかがもなにも、絶賛不機嫌だ。
俺に声をかけたそいつは、瞳と同じ色の癖っ毛に中性的な顔立ち(どちらかといえば可愛いと言われる部類の)、190cmはあろうかという長身に、真っ黒いスラックス、その上にノリの効いていそうな白いシャツと黒いベストを身につけ、腰のあたりにジャラジャラと大量の懐中時計をつけていた。
なんなのだコイツは。ふざけた服装しやがって、不審者丸出しだ。さっさと教師に追い出されろ。そんな事を眉を寄せて思ったが、周りの同級生はおろか、教師は気にした様子もなく淡々と授業は進んでいく。馬鹿な、こんな目立つ奴を完全無視だなんて。
コイツは俺にしか見えない幻か何かか、それとも今まで散々馬鹿にしてきた厨二的何かに目覚めてしまったのか。何か喋っている男を無視して、俺は必死に思い当たる節を探した。なんだってこんなのが俺の前に…そこまで考えて、ふと思い出した。そうだ、俺は昨日ゲームに熱中しすぎて朝方の3時に寝た。これは寝ぼけた俺の見ている白昼夢か何かなのだ。
そう考えるとなんとなく辻褄が合う。問題は睡眠不足だったのだ。目の前の問題を解決しようとしてかただの生理現象か、俺の脳は、またぼんやりと省エネモードに入っており、瞼も今日は閉店だとばかりにシャッターを下ろそうとしていた。別段それに抗う理由もない。俺はまた静かに眠りの世界へと沈んでゆく。
かすむ視界の中で、幻覚と思われる男が頭をかきながら困ったような顔で俺を見下ろしているのが見えたが、この眠りから醒めればどの道コイツとはおさらばなのだ。
いっそすがすがしい気分で、俺は今度こそ完全に睡魔に身を任せた。


目を覚ましても男が消えないなんて、この時の俺は思いもしなかったのである。

(閉じた幕は再び上がり、舞台は役者を待っている)
作品名:Alice in strangeland. 作家名:ripo