「夢の中へ」 第一話
ここに来て数日が経った。
まどかは女性のものが来てしまった。何も準備していなかったから藤次郎に知られるのが恥ずかしく思った。いつもは気にならないことでも、今は早く過ぎて欲しいと祈るばかりだった。
「まどか!いのししが罠にかかったぞ。子供だけど、今日はご馳走だ!」
走りこんで来た藤次郎の声が聞こえた。
「良かったね。手伝おうか?」
「まどか、怖いって言ってたんじゃないのか?」
「そんなこと言ってられないでしょ。お手伝いするわ」
「じゃあ、足を縛って運べるようにしたいから、棒と縄を持って付いて来てくれ」
罠のあるところに二人は向かった。泣き声をあげながらやや小ぶりないのししがばたばたと逃れようともがいていた。
藤次郎はまどかが持っていた棒切れを手にとって、いのししの頭を叩いた。鈍い音がして動かなくなった。
足を棒にくくりつけて2人で担いで小屋まで持ち帰った。
さすがに解体するところをまどかは手伝えなかった。
食べきれない肉は塩漬けにして床下に保存する。夏場になると腐りやすいから、肉を塩漬けにして干す。
久しぶりのしし鍋は身体に力がわくような栄養分を与えてくれた。
作品名:「夢の中へ」 第一話 作家名:てっしゅう