あなたとロマンス
冬の日差しの中で
雲の切れ間から差し込む冬の陽ざしは、じりじりと焼ける夏の陽ざしと違って優しい。
冷たい冬の風を和らげる太陽の光に心がほっとするのは僕だけだろうか。
海沿いのホテルの陽だまりのベランダに出たのは、エアコンの乾燥した空気から逃れたかったのもあるが
一緒にいる彼女の涙からも逃れたかったからだ。
「結婚してるじゃないか君は。どうやって一緒に暮らそうと言うんだよ」
「だって、もうあの家には帰りたくないのよ・・・」
ベッドに腰を下ろした彼女は顔を両手で隠し泣いていた。
40代、少しカールした長い髪は栗毛色のようでいて黒に近い色をしている、そして白い指が長い。
上品なスーツは無理な理由で会社を抜け出した彼女の制服姿だった。
午後1時を回った頃、彼女からメールが来た。
「今すぐ逢いたいの お願い迎えに来て」
好きな女性のメールに無理をするのが僕の男としての流儀だ。
「わかった 職場はいいの? すぐ行くから」
僕は午後からの仕事をキャンセルして彼女の会社の近くのカフェの前に車を停めた。
そして、なんだか曇り空の様な彼女の表情に気を遣いながら無言のまま海沿いの道に車を走らせた。
西高東低の冬の気圧配置で冷たい北風が吹いていたが、太陽の陽ざしは眩しく誰もいない冬の海を煌めかせていた。