小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

8月の花嫁

INDEX|5ページ/5ページ|

前のページ
 

着いたのは小さな教会の前だった

大きな扉を開き中へ入ってみた

目の前に飛び込んできたのは大きなガラス窓から見える
果てしなく広く青い海の景色だった

誰もいない教会の中 
幾つもある椅子の3番目に彼女は座った

そして ただ 大きなガラス窓から見える 
キラキラと太陽に光る青い海をじっと見つめていた

しばらくして

「ここであの人にさよならをしないといけないよ....ね….」

彼女は


何かに 思い立ったように立ち上がり教会を出た




26.

少しづつ太陽が海へと近づき始めた頃


何処にも彼女の姿はなく 私たちは仕方なくホテルへと戻って来た


ロビーに入るとホテルマンが

「先ほどこれをお預かりいたしました」
「俺に?」
「はい 若い女性の方でしたよ これはあなたにです?」
「私にも 先輩?」

彼には大きな箱と手紙
私には手紙

箱の中身は白いタキシードが入っていた

私に宛てられた手紙には


【私の最後のわがままを聞いてほしいの
  彼にさよならをするための儀式がしたいの
   ちゃんと終わりにするために お願いねがいを叶えて】

「行きましょ」
「行って 俺に…どうしろと」
「とにかくこれを着て 最後の願を叶えてあげてください」
「着れるわけないだろう」
「先輩がどんな思いでいると?
  最後だと彼女が言っているんです ちゃんと願いを叶えて
                    終わらせてあげてください」

「僕も…先輩に言える立場じゃないですけど彼女の言う通りだと思います
             最後の優しさを彼女にあげてもいいんじゃないですか」

「...わかった」

「僕も行かせて欲しい」

「うん」


私とあの彼と

そして若い彼と彼女が待つ教会に向かった




27.

太陽の神と美しい海の神は
早く互いに触れ合う事を急かしているかの様に
ビーチを染めていった


街を離れた浜辺の小さな教会は
夕陽に照らされてオレンジ色に染まり幻想的に見える

その教会の大きな扉を開いた

数多くの蝋燭にともされた灯 

大きな窓ガラスの向こう側
太陽の神と美しい海の神の姿が
教会の中を黄金色に輝かせていた

その中に
彼女は真っ白なドレス 白いプルメリアの花冠
甘く薫るプルメリアのブーケを握り立っている

その姿は言葉にならない程 美しかった

彼がその彼女に向かって歩いて行く

ふたりは微笑みを交わす

彼が腕を差し出す その彼の腕に彼女が答える

それを見ていた若い彼が自ら神父に姿を変えた

太陽の神と美しい海の神は今か今かと待っている

静かに進められる儀式を私は一番前の席で見守った

「では誓いを…」神父代わりの彼が言う

ふたりは神父代わりの彼を前に

『 私たちは、良いときも悪いときも、富めるときも貧しきときも、病めるときも健やかなるときも、死がふたりを分かつまで、愛し慈しみ貞節を守ることをここに誓います。』

と   手を合わせて誓う

厳かな中でのふたりの言葉は私の胸を突いた

そして 彼が淡いピンクの桜貝の指輪を彼女の白いしなやかな指に通す

太陽の神と美しい海の神のKISSの瞬間
彼と彼女は唇を重ねた

それは自然で まるで映画のワンシーンを見るように


私は思わず持っていたカメラのシャッターを押していた 


彼女の恋はこうして終わりを告げた




28.

そして 私たちは.....




郊外の小さな喫茶店

ドアを開けるとカランカランと鈴の音が鳴った

「ただいま」私はいつもの様に挨拶をする

そして
カウンターのいちばん左端に座る 私の特等席

「お帰り」珈琲を点てている背中が答える

「はい お土産」
「いつもありがとう 今回は どこまで行ってきたの?」

振り返り私に向ける笑顔は逞しくなった先輩

「スペイン」

「変われば変わるものね 飛行機がだめだった子が 
         今じゃあっちこっち 世界を飛び回っちゃって」

「ほんとね」ふたりは笑った

「はい いつもの」

珈琲を差し出した彼女の手を見る

少しやせた指には
今もまだ  
あの淡いピンク色の桜貝の指輪が飾られている


またカランカランという音でドアが開いた

「ただいま かあさん」

制服姿の可愛い彼が私を見る

「あ お.ね.い.さん 帰って来たんだ」
「久しぶり 坊や」
「やめてよ その呼び方 もうガキじゃないんだから」
「坊やも嫌味でその呼び方はやめて」
「あなたが教えたんでしょ お.ね.い.さん」
「そうだっけ」
「やだね 歳をとるとすぐ忘れるんだから」

可愛い顔して彼が言う

「幾つになったのよ?」と 私が聞く

「ほらっ また 忘れてる もう15だよ」彼が答える

「そっか…」

私たちも年を取るわけだ

あの時 彼女のお腹に芽生えていた命は


「そうだ 15歳の記念に写真撮ってあげる」
「まぁた~?」
「何よその言い方」
「何かあるとすぐ記念写真だって撮るからさ」
「あんたは 何んてことを言うの 
       賞をとった 今を時めく売れっ子カメラマンに」
「そうよ 先輩 もっと言ってやってよ」

私は

あの時 彼から カメラを貰っていなかったら  

人生は不思議なものである

彼女も

あの儀式は終わりではなかった 彼女の新しい人生の始まりだったのだ


「あ…私 もう行かなくちゃ」
「え~もう」
「うん 今度の仕事は韓国の超売れっ子の
           アーティスト3人組の写真集の撮影なの」
「羨まし~サイン貰ってきてね」
「ミーハー」
「なんとでも言って ねっ 忘れないでよ」
「はいはい じゃ行ってきます」
「気をつけてね 行ってらっしゃい」

月日が経つのは 早いものだ

ドアを開けて空を見開けた 真っ青な空に白い雲が浮いている

あの頃と同じ様に 



お店の白い壁に掛けられている写真
夕陽の中で微笑んでいるウエディングドレス姿の彼女の横顔


その写真の下には
【第24回……大賞 タイトル 8月の花嫁】と 記されている


そして….彼女は 

あの日の誓いを 今もずっとひとりで守り続けている




8月の花嫁 .....FIN





☆表紙の動画はお借りしたものです。
最後までお読み頂いた心お優しい方々に感謝いたします。 
つたない物語にお付き合いしてくださり 誠にありがとうございました。
                      



作品名:8月の花嫁 作家名:蒼井月