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なつきすい
なつきすい
novelistID. 23066
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カフェ・サニーディサンデー

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2.切り取られた時間を繋いで


 ある日曜の朝のこと。いつものようにひなたがサニーディサンデーに出勤すると、ひなたの顔を見るなりマスターの整った顔が翳った、ように見えた。
「おはようございま……す?」
 様子がおかしい。マスターが困惑を浮かべることは珍しいし、そしてその原因がひなたにあることなどほとんどない。ひなたの知る限り、これまでにたった一度だけだ。
「ひなたちゃん、髪、どうしたの?」
「あ、これ、ちょっと鬱陶しかったんで切ったんですけど、……変ですか?」
 彼女のトレードマークであるポニーテールを結うのにはかなり足りない、ボブカットに近い髪。仕事中にばさばさして不潔な印象を与えてしまわないように、しっかりとヘアピンで押さえてある。鬱陶しかったのは嘘ではないけれど、実は一昨日料理をしている際に不注意で髪の毛を焦がしてしまい、なんとか格好がつくように昨日慌てて美容室に行って切りそろえてもらったというのが真相だったりする。
「いや、君は悪くないんだ。ただ、うん、なんというか……ちょっと問題があってね」
 なんとも歯切れの悪い言葉に、ひなたは首を捻った。あまりにもらしくない。マスターはどこか超然としたところがあり、あまり動揺したところを表に出すことはなく、いつも淡々と構えている印象がある。
「三日前に、あるお客さんをうちで匿うことになったんだ」
「……匿う?」
 カフェという場に似つかわしくない不穏な単語に、ひなたの頭は疑問符でいっぱいになった。マスターがその筋の関係者と親しいとかそんな話は聞いたこともない。しかし妙にその言葉がしっくり来る常連客がひとりだけいることに思い当たる。だが、彼が三日前にこのカフェに来られるわけがない。ひなたや彼にとって三日前は木曜日だ。このカフェは日曜にしか開いていないのである。しかしだ。
「ほら、ひなたちゃんの大学の、眼鏡でかわいい顔した、男子エクストリームラブゲーム自由形の彼いるでしょ」
「は」
 頭に浮かんでしまった人物と寸分違わぬ人が出て、思わずそんな間抜けな声を出してしまう。
「まぁ、君の知ってる彼ではないんだけど、彼にとても近い人だね。見た目と性格は大体君の知ってる彼と同じだと思って聞いて」
 その言葉に、はっと息を呑んだ。つまりは、そういうことだ。三日前に日曜日だった世界にも、彼、もしくは彼に極めて近い誰かがいるのだ。そしてその彼が今、ここにいる。
 性格と見た目がだいたい同じだというのなら、恋愛蟻地獄っぷりも同じなのだろうか。そうだとするならばもう嫌な予感しかしない。1:4:1ぐらいの割合でまとも:一般的な地雷物件:警察もしくは病院沙汰という異常な引きの強さとひとりラブサスペンスアンソロジー状態の恋愛遍歴を誇る彼だ。匿うということは最後の1を今回は引き当ててしまったのだろうか。しかしそれぐらいならだいたい多少の被害は出しつつも、自分と親友であるらしい大柄な彼との力でなんとかしている。ただ、今マスターが匿っている彼にも、相方である彼がいるのかどうかは知らないが。一体何をやらかしたのだろう。割と毎回、どうしてよりによって大量にいるはずの女子の中からそれをチョイスするかなぁと首を傾げざるを得ない、ただし確かに見た目だけは一級品の相手を捕まえてはひなたの常識の範囲を軽く超える事態に巻き込まれている気はするが。
「今某国のマフィアと大使館員から追われてるんだ」
「はい!?」
 しかし今回は常識どころか、予想の範囲すら軽く飛び越えられて、ひなたはその目をまん丸に見開いた。
 
 今の彼女、そして彼にとっては元カノにしたいところである女性は、東欧の某国からの留学生で、彼の所属する研究室に一年間の予定で来ていたのだそうだ。マスターから、件の彼から(電波から探知されないようにという名目で)預かった携帯に保存された写メを見せてもらったが、いかにもスラブ系の白磁の肌に栗色の巻き毛、愁いを帯びた大きな深い青灰色のくっきりした瞳。掛け値なしの美人だ。こんなのが男子の比率のほうが高いような学部にいたらさぞやモテたのだろうが、並み居るライバルをあっさり抑え、それもおそらくはものすごい短期決戦で手に入れているのであろう。その彼女と付き合いだす直前まで、彼はまた別の女性との間にトラブルを抱えていたのだそうだから。
 だがしかしこの美女は残念ながら極普通の留学生ではなかったし、それを引き当てるあたりが彼が彼たる所以なのである。
 彼女には故郷に婚約者がいた。そのことは公表してはいなかったし彼女も結婚に乗り気でなかったがゆえにそれを話題にすることもなく、彼もそれを知らなかったのだから、結果的に寝取る形になってしまったことは必ずしも彼の責任ではない。彼女の心は自分の意思でなく決められた、会話すらしたことのない許婚よりも、熱烈に自分を口説いてきた彼に向かってしまった。それもまあ仕方のないことであろうし、婚約を破棄して日本に残って彼と結婚したい、と言うだけなら、或いは彼も覚悟を決めたかもしれない。一度別れてしまえば切り替えが早いだけで、別に浮気性でもなければ遊びだけが目的のわけでもなく、毎回彼なりに真剣なのだとは相方であるところの大柄な青年の弁だ。とはいえ、それはあくまでひなたの知っている男についてのことではあるのだが。
 ただ、命の危機に晒されれば話は別だ。彼に限らず誰であっても。ただ、普通はそんな相手と付き合うような事態には滅多にならないというだけで。
 彼女はかの国において政治的にも経済的にも力を持つ有力貴族の令嬢であって、結婚までの間自由にさせてほしいとの願いで身分を隠すことと、日本に経済的なコネクションを作っておきたい親の意向に沿ってある程度働くことを条件に、一年間の留学を許されたのだそうだ。隠されていたのだからそんな事情を知るはずもない彼は彼女を熱烈に口説き、それに絆されたのかそれとも彼の外見的魅力につられたのかそのあたりの事情は本人のみぞ知るところだが、ともかく彼女は彼を選んだ。実家と縁を切り、慣れない日本で一生を過ごしてもいいと親に宣言してしまうまでに。
 しかし彼女の婚約者との結婚が成立しても成立しなくても、物凄く困る人たちがいるのである。相手は、彼女の故郷に近い資源の豊かな国のエネルギー関係の財閥の御曹司だそうでやはりその国の政体と極めて関係が深く、二つの大財閥の間の婚姻、資源に乏しい彼女の母国への資源の安定供給の道、そして日本人には説明されても正直よくわからない微妙な信仰の違いがもとで複雑な空気の流れる二国間の関係強化、及びそれに伴う種々のあれこれ、と、彼らの結婚は実に様々な効果を持つのである。