舞台裏の仲間たち 8~9
離婚調停中のちづるの夫が、
座長だったというのは、実は初耳です。
さらに最近になってから、座長と時絵が接近しつつあるという
話題にも触れてしまいました。
「茜ちゃんは、平気なの?
ずいぶんと微妙で厄介な話だけど、
世間ではよくある、人間関係のもつれかな。」
「茜、でいいわよ、
ちゃんは、いりません。
できたら、これからはそう呼んで。
でもさぁ・・・よく聞く、三角関係の話とは少し違うみたい。
姉のちずると座長の離婚話と、
時絵さんとの再会は、完全に時間がずれているの。
それにしても、二人に
子供がいないということが
不幸中の幸い、というところかしら。」
「ふ~ん。子供はいないんだ。」
「劇団が解散して間もなくのことだったかしら。
時絵さんが、遠くで結婚式をあげたという話を聞いてから間もなく、
姉が強引に言い寄って、押しかけ女房そこのけで、
座長を口説き落としたの。」
「え、そうなの?・・・知らなかったな。」
「当然よ。
二人は結婚するとすぐに、
座長の仕事の関係で日立に新居を構えたの。
座長は技術系の職人さんで、
機械加工の仕事だと聞いたけど、詳しい事は知らないわ。
第一、10年近くも姉とは行き会っていないもの。」
「じゃあ姉さんは、いまどこに?」
「日立でそのまま暮らしてる。
座長は、半年前に桐生へ戻ってきた。
帰ってきてすぐに、一度だけ座長が私に電話をくれたわ。
離婚することになるかもしれないって・・・
でも姉のちづるからは、いまだかって
一度も、そんな話は聞こえてこなかったのに。」
「時絵ママは?」
「2年前だった。
旦那さんとは死に別れて戻ってきたの。
でも、ず~と水商売ばかりだって言ってなぁ・・・
たまたま、本町通りで行き会ったのよ。
お互いに似た人だなぁって思いながら、一度は気にしたものの、
そのまますれ違いになってしまったの。
でもねぇ不思議なことに、
その30分後にまた、ばったりと出会ったのよ、
何処だと思う?
民芸がやって来るという、地方公演のポスターの前よ。
私が立ち止まって見ていたら、
同時に反対側から歩いて来た人が、同じように
止まってポスターを覗きこんだの。
顔をあげたとたんにお互いに見つめあって、思わず二人で大笑いをしたわ。
あ・・・ねぇ・・・
止めて、車。」
作品名:舞台裏の仲間たち 8~9 作家名:落合順平