私の隣のあなた
私が、あなたと出会ったのは若葉が色濃くなり始めた頃。やっと気持ちにひと区切りつくことができた私が、久し振りに街へと出かけたときだった。
夏に向け、新しい洋服を買ってみようかと思っていた。本当は、数ヶ月前まで夫であった方に買って貰ったものを処分したこともあって着るものが少なくなっていたことが本音といったところだ。
まだ、夏までの助走に過ぎない日だというのに、朝から暑い陽射しが照りつける。予報は、今年一番の暑さになるという。
まさに夏の服を買うイメージの抱き易い日だと思い出かけたものの、それは間違いだと駅に辿りついた頃に理解した。
「暑い……家で過ごせば良かったかな」
暑さに加え、ホームに篭る空気と、電車が入ってくるたび押し寄せてくる熱気で首筋が汗ばんでくるのを感じた。服を買いに行く前に汗をかいては気分も良くない。バッグからタオル地のハンドタオル取り出し首元へ当てたその肘にぶつかったのがあなた。
ぶつかったあなたは、私を睨んだ。そう、その時はそう感じた。
「あ、ごめんなさい」
どちらがいけなかったのかはわからない。でも私は、反射的に謝った。
「いえ」
ぶっきらぼうではあったものの、声を出してくれたことに少し安堵した。
まもまく、電車が入って来た。あなたの姿は見当たらなかったけれど、たぶん同じだったのだろうと思う。降りた駅の改札口で見た後姿はうる覚えの記憶の中にあった。
(また会ったら嫌だな)と思うところかもしれないが(また会えるかな)と思っていた自分に気付いたのは、通路の自分が映った壁面で身だしなみを確認したときだった。