舞台裏の仲間たち 6~7
言うなりドンとドアを開け、
上着の裾を翻して、堤防の急斜面を駆け下りようと身構えました。
これはもう、止める他はありません。
背後から、今度はしっかりと羽がい絞めにしてしまいました。
「ねぇ、
また背中からなのぉ・・・
たまには前から、抱きしめられてみたいなぁ~。
3昼夜も男と女が一緒だったというのに、
いまだに、全然色っぽい展開にならないんだもの、私たち。
まァ、ぁ
・・・それも全部私の責任だけどさぁ、
孕(はら)んだ女じゃ、どうにもなんない話だよね。
ごめんね、わたしが、我儘(わがまま)過ぎる女で・・・」
くるりを向きを変えた茜が、
いきなり私の胸の中に、顔をうずめてしまいました。
「明日からまた、
看護の仕事がはじまるわ。
暇があるから、悪いことばかりを考えてしまうのよ。
クタクタになるまで働いて、何んにも考えずに
グッタリとして、
疲れ果てて眠ってしまいたい。
なんて自堕落な人生を送っているんだろうねぇ、あたしったら。
自業自得は自分でも解っているけど、
どうにも悲しくって、
やりきれないな。」
「わかったよ、呑みに行こう。」
「ううん・・・
もう少し泣いてからでいい。
こんなはずじゃなかったのに、
こんなつもりでも、なかったのになぁ。
何やってんだろう、茜は。」
夕闇が、時間と共に降るようにおりてくる中で、
温められた茜のシャネルのNo5が、
また、かすかに、胸元から香り始めました。
作品名:舞台裏の仲間たち 6~7 作家名:落合順平