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「舞台裏の仲間たち」 1~3

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 250人近くいた、中学の同級生の中でも、
自他共に認める異端児や秀才、変人もしくは奇人と呼ばれていた数人が、
まず最初に、この劇団のメンバーになりました。


 座長は、昔からの(筋がね入りの)文学青年です。
小・中学校ともに、学校にある文学集を早々に読破しました。
あげくには、大人たちのための市立図書館へ通い続けて
文学書などを読みあさりました。

 ただし文章だけが、どうやっても書くことができません。
発言や会話の中には、的を得た鋭いものが人並み以上に光っているくせに、
いざそれらをまとめて文章化をしてみると、
小学生なみか、それ以下の、
まったく幼稚な作文になり下がってしまいました。
ゆえにこの人は、台本を一切書いたことがありません。

 大衆演劇などと同じ手法です、
「口伝え」によるセリフ作りが座長のやり方でした。


 舞台の美術を担当した二人、
西口と小山くんは実に、対象的な生き方を選びました。
職人肌の西口は、高校を中退した後に、
すぐにヒッピーとして、日本全国を放浪してしまいました。
写生と精密画を得意とした小山くんは、
堅実に美大を卒業して、すぐに教職へとつきました。

  ■ ヒッピー( Hippie)とは、、伝統や制度などの、
  既成の価値観に縛られた社会生活を否定することを信条とし、
  また、自然への回帰を提唱する人々の総称です。

   1960年代後半に、
  おもにアメリカの若者の間で生まれたムーブメントで、
  のちに世界中に広まりました。 
  彼らは基本的に、自然と愛と平和と芸術と自由を愛していると
 述べています。
  日本では、「フーテン」と呼称された時期もありました。


 
 音楽を担当した森くんは、
大きな寺院の長男で、幼少の頃からピアノを習い
本人は音大を出て、本気でオペラ歌手になることを目指していました。
楽器全般を器用に弾きこなしていましたが、肝心の
テノ―ルの歌声の方は、いまひとつ(だったような・・)
気がしました。

■ テノールとは、 混声4部合唱においては、
  下から2番目に低い声部のことで、
  バスより高く、ソプラノおよびアルトの下にくるもの。
音色は、透明感のある明るい声が特徴です。



 女優陣には、一歳違いの美人姉妹がいましたが、
やきもち焼きの姉と、反発心のひときわ強いそばかすの妹は、
いつもながらの、騒動の種でした。
女子高生の時代から、県下にその名前が知れわたってきた熱演派の
時絵(ときえ)が、常にヒロインを務めました。

 かく言う私は、事務方でした。
と言うより、公民館職員の一人として、できたばかりの劇団との
窓口を任されただけの話です。
当時、この公民館には着任をしたばかりで、
私が受け持たされたのはこうした出来たばかりのグループや
趣味のサークルなどが、ほとんどでした。

 劇団はこれらのメンバーを中核にして、
その時々の演目によって、あちこちから人員を調達しながら、
約2年間で6回の公演を成し遂げました。
座長が脚本を書き上げて、オリジナルの舞台もできるはずでしたが、
一向に書きあがる様子が見えないために、
結局、木下順二の作品ばかりを上演することになりました。

 時絵のはまり役でその18番が、『夕鶴』でした。

 『夕鶴』は、日本のいたるところに残っている「鶴の恩返し」や
「鶴女房」などの民話をその原型にしています。
木下順二は、佐渡島に伝わる「鶴女房」の民話をもとにして、
それに肉付けをして『夕鶴』を書きあげました。

 鶴である「つう」は、
わなにかかっていたところを与ひょうに助けられて、
その恩返しをするために、与ひょうのもとに嫁いでくところから
その物語ははじまります。