永遠の音楽
見回す中で一軒の店が目についた。ショーウインドウが申し訳程度についた質店だ。そのショーウインドウには懐中時計や万年筆など細々したものが並べられていたが、品数は多くない。店内との間仕切りの衝立の横から中が覗えた。柱時計はこの店のものか、それとも質流れ品か。
通り過ぎようとした私の視界に、それは引っかかった。「あれは」と思うより先に手は格子の引き戸にかかっていた。
カランカランと戸に付けられた鈴が鳴り、奥から丸眼鏡の親仁(おやじ)が出てきた。
「いらっしゃい」
かけられた言葉に応えもせず、それの前に立った。
無雑作に棚に並べられていたのは、女性的な曲線が美しいヴァイオリン。ケースも弓もなく、楽器本体だけが陶器用皿立てに乗せられている。倒れないようにネックの部分が凧糸で皿立てに固定してあった。よくよく見ると、新品であったとしても安物だ。細かい疵が表、裏、側板についていた。
弦は四本張られている。指で弾(はじ)くと、ちゃんと音が鳴った。
私の耳にもう何年も忘れていた尚さんの「音」が甦った。