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豊の掠れる声がしても、彼はシャツから手を離さなかった。顔はまだ青白いものの、掴んだ手の甲にはうっすらと血管が浮き上がっている。
「・・・あ、青山、輝一・・・」
初めて聞いた彼の声は少し高かった。驚いた顔でどもりつつ、それでもはっきりと名前を告げた輝一に、豊は、ふぅん、とだけ返した。
今はこれ以上、何も聞けそうにないし、何も言えそうにもない。彼の声を聞くと驚きも動揺も何故か収まった。豊かの心にあるのは、静けさだけだった。
聞きたかったことも、言ってやりたかったことも、また今度にしよう。
輝一とは長い付き合いになる。豊は改まった心の直感を聞いて、小さく微笑った。 《 終 》