小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
小渕茉莉絵
小渕茉莉絵
novelistID. 40515
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

最後に笑うのは誰だ―7

INDEX|2ページ/3ページ|

次のページ前のページ
 




辺りが凍りついたのは、言うまでもなかった。最初に声をあげたのは、真の実力者・恵知だった。

「ハッ……どこに逃げたのかと思えば、英……」
「お久しぶりです、お義母様。」

紳士ぶってお辞儀をする英に、恵知の怒りが沸点を超えた。恵知は高貴な椅子から立ち上がり、血走った眼をしながら属魔法を発動させた。

“火の矢”

「そんなに恐ろしい顔をなさらないでください。どうか、その矢を閉まってください。お義母様。」
「お前に義母などと言われたくない!!」

会場内がざわつく。それもそうだ。これは、当主夫妻と本人、そして健太郎しか知らないトップシークレット。流星と朱音は記憶隠蔽術をかけられていたし、流星は朱音の話を聞いて思い出したのだ。
奥様の義理の息子……?
流星様のご兄弟……?
分家の者たちのヒソヒソとした会話が、更に恵知の怒りを底上げする。

「黙れ下衆ども!!今から喋ったものどもは、殺す!!」
「は、はい……!」

分家の者たちに怒鳴った恵知は、矢の威力を高めて再び英の方に視線を向ける。一方の英は、そんなの気にしない、なんてのんきな顔で見つめ返した。健太郎はいない。会場に、辺りに被害をあたえないようにバリアを張っているのだ。一見優しさの行為に見えるが、その逆。騒ぎがバレて敵が増えるのも面倒だし、土屋の誇りを守るためだ。敵が増えたところで英と組めば負けるとは思わないし、そんな簡単に土屋が崩壊するなんて、思っていないが。

「旦那様……私、やっぱりこの膿を殺すことに決めましたわ。」
「自分が生かすことに決めたのに、か。」

葵は冷静に、当主の席に座って立とうともしない。恵知の性格上、殺されかねないし、何より自分が言ったところで止まるとは思わない。
ただ、流星のバリアに文句を言わず包まれている。本家の出ではない葵は、属魔法は使えないからだ。

「何故、あの時、殺さなんだ。」
「あなたを離さないためですわ。もし本家筋で旦那様より素晴らしい人間が出てきたら、いくら純潔の私でもご指導できない。流星のためにもならない。私は、あなたを脅したのですよ。当主の座を勝手におりたらバラしますよ、と。」
「やはり、有能でいらっしゃる。お義母様。でも、あなたに興味はないのです。」
「旦那様!早く、こいつを処分なさって!気が変わりました。私がやると、この純潔が穢れますわ。流星に、殺させて。」
「それは……できない。」
「何故?!」
「ま、男にはそういう本能があるってわけだ。」
「?!」

いつになく冷静な面持ちで、バリアを張り終えた健太郎が、カツカツと靴音を響かせて入口から堂々と入ってきた。護衛のものを処分しながら、本家の席に――問題の場所に近づいていく。
壇上に上がると、葵の前に立つ。

「そうだよなぁ……親父。」
「おやじ……?」

皆と同じく臨戦態勢をとっていた朱音が、少女がひらがなを覚えるように、一つ一つ呟いていく。葵は黙ったままだ。

「どういう事……?旦那様……?」
「こういう事さ。」

皆が、息を呑む。健太郎は静かに話し出した。




二十数年前、土屋家本家―――


「なんて可愛い……目のところなんて、奥様にそっくりです。」
「当たり前でしょう。私の子供なのだから。ねぇ……流星。」

乳母に抱かれる愛息子を見つめ、クスクスと笑うのは、土屋家当主夫人だ。もっとも純潔なのは彼女の方。主人はそれなりの分家から出てきた、土屋ブランドの只の看板だ。前当主に男児が生まれなかったから起こった土屋家のトップシークレット。


「お名前は、流星様とおっしゃるのですか。」
「ええ……流星群が降っていたのよ。まるで美知を亡きものにするのは、この子だというように。」

恵知が、ねぇ流星、と言うと、真意を知らないただの赤ん坊だった流星は知る由もない。満面の笑みで母親を求めた。乳母は恵知に流星を預けると、赤ん坊を抱いた故におきた着物の乱れをサッと直す。
乳母は知っていた。流星がこの世に生まれた存在意義。憎い妹を、物理的にも心理的にも追いつめるための道具でしかないことを。
流星の小さな手をぎゅっと握って周りを見渡した恵知は、周囲の変化に気付いた。

「お前、葵様はどこへ?」

恵知は、必要最低限の名前しか覚えない。それ以外はすべて、“お前”。

「離れに向かったようです。坊ちゃまの大切なことだから誰も入らないように、とのことで。」
「そう……たかが分家出の者が、偉そうに。」
「……」

“お前”は、何も言えない。


当主・葵は恵知に隠し事をしている。自分に妾がいることだ。
大学時代――恵知という高嶺の花(この頃は、そう思っていた)との婚約が浮上した時、偶然、金が目当てで寄ってきた女だった。医者の娘で、頭脳はいいとは言い難いが知恵がある。そういう女。次期当主になる――もともとメンタルが強いとは言えない葵は、ストレス発散のために女と寝た。そして、子供ができてしまった。胸の内に秘めておこうと思っていたが、なんと恵知との子供と同じ予定日になった。
どんな理由があろうと自分の子供。気になって女の入院する病院に電話をかけた。

「そうか……生まれたか。」
『はい。名前は“英”と言います。』
「何故だ。」
『あなたから冠を頂きました。私は学がないので、他に感じが思い浮かばなく……心配には及びません。届は出しませんから。』
「すまないな……」
『もう会うこともないでしょう、土屋家の御当主様。お金は例の口座に入れてください。』
「わかった。」
『それと……もう一つお願いがあります。』
「願い?」

葵は、耳を疑った。それが、例の事件だ。

「英を……あなたの子供だと、宣言してほしいの。出来れば、あなたの……流星だっけ?その子が物心ついたころに。後ろめたいのは嫌なのよね、私。パパに怒られちゃう。」


美知が激怒する。

「忌々しい子供……!すぐにでも殺してしまえばいいのに!」
「やめてくれないか……皆が見ている。」

止められない。

「貴方の責任でしょう!流星坊ちゃまたちには、記憶隠蔽をすればいいだけのこと……それより、土屋でもない下衆な女の子供を作るなんて!葵様!」
「悪かった……私はどうかしていたんだよ、美知さん……だから、殺すのだけは勘弁を……」
「汚れる!やはり、お父様が……!」

「まあ、お待ちになって。」

止めたのは、なんと恵知だった。裏があるとは思っていた。案の定、自分を制御する為だったのらしい。自分は、土屋というブランドの看板でしかない。



「とまぁ、ここに居る奴らは、知ってるよな。そして、流星と朱音と、その場の身分の低い分家に記憶隠蔽を施した。」
「俺は消されたってわけだな。」
「ちょ、ちょっと待て……」

話を遮ったのは流星だった。健太郎は、明らかに嫌な顔をして、バック転をして流星と距離をとる。どこまでも慎重な男だ、英はそう思った。恐らく、朱音も。

「英が……親父の子供……俺の異母兄弟なのはわかった。受け入れられないけどな。だが、なんでお前まで“親父”って……」
「まさか……」
「さすがだねぇ、朱音。お前の勘はヨク当タル。」