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Choice ~チョイス・その4~

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Choice1-4

Am4:40
エマ

「私を殺して。」

 と、私は言った。

 男2人が叫びあう姿は、何とも情けなかった。
 2人とも怖くて、怖くてしょうがないのだろう。

 だったら、もう早いとこ私を殺しちゃって下さい。
 私の恐怖心は、ここで意識が戻って30分には消えたので。

「な、何を言っているんだ。」

 ダニエルさんが、驚いた様子で尋ねてくる。

「君は死んでもいいのか?」

「ええ、まぁ。別に大丈夫です。」

 すると、カイルが血走った目で

「殺せよ。ダニエル、その女を殺しちまえ。早く!」

 ダニエルさんはカイルの言葉に動揺していた。
 何もせず、立ちすくんでいる。

「何で、何で私が、そんなことを。」

「あんたは生きたいんだろ?俺も同じだ!だが、その女は違うんだ。簡単だろ?死んでも構わないって言ってんだから、殺しちまえ!」

 ダニエルさんは手に持っていたノコギリを見た。そして、私を見る。

 私に近づくダニエルさん。その目にはうっすらと涙が。

「本当だな?死んでもいいっていうのは…、それは本心なんだな?」

「ええ。」

「なぜだ?」

「だって、これってゲームなんでしょ?心理実験じゃないんでしょ?心理実験じゃないんなら、何もしない限りこの中の誰かが助かる見込みはない。はい、実験終了です。ご苦労様でした。って事にはならないわけよ。何もしなければここで死ぬわよ。生きたいのなら私を殺して。そして、ここから脱出してください。」

 ダニエルさんは私の目の前にしゃがんだ。さっき、私の鎖を切ろうとしたときのように。ダニエルさんが持つノコギリは、鎖を切って私を救う道具ではなく、私を殺す凶器となった。

 ダニエルさんは私の首にノコギリを近づける。その手はカタカタは震えている。息は荒く、目に溜まっていた涙もこぼれ落ちる寸前になっていた。

「くっ。」
  
 奥歯を噛みしめ、私の首にノコギリを押し付けた。
 そして、ゆっくりノコギリを引き始める。

「ううっ。」

 まるで、ダニエルさんの方がノコギリで切られているかのようだった。

 私の首から、少し血が出る。

 その血を見たダニエルさんは、ひるんだようだ。ノコギリを私の首から離す。

「出来ない。私には出来ない。」

 ダニエルさんは項垂れると、涙をながした。

「何よ。私のことを助けることもできなければ、殺すこともできないんですね。」

「黙れ。私に人殺しをする勇気などないんだ。」

 私は首元を触って、自分の血を確認する。

「生きてる。」

 どうして?

 私は死にたくてしょうがないのに。

「なぁ、どうしてお前は死んでもいいと思うんだ?」

 床に突っ伏して泣くダニエルさんを片目に、カイルは私に質問する。

「今度はお前が話す番だ。」

「…いいわ。ちょうど記憶も戻ってきたところだし。話してあげるわね。」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ある日の
Am10:46

「お母さん、今日って買い物行くでしょ?私も行っていい?」

 ある日の休日、内職にいそしむ母に話しかける。

「いいわよ。」

 母はこっちも見ずに返事をする。

 忙しいから?いいえ、違う。
 母はいつだってこうだ。

 母は私をことを気にかけてくれない。

 今、母はこうして内職をして落ち着いているようだけど、薬への欲求を内職に神経を注ぐことで打ち消しているだけ。

 母は、麻薬依存症。それから、浮気もしている。そのことを家族みんなは全て知っている。
 
 家族みんなと言っても、私の家族は、母と父だけ。父は長い間、単身赴任で私達とは離れて暮らしている。もう、ほとんど母と2人暮らしと言ってもいいぐらいだ。

 私はよく、母はどうして薬に手を出したのかを考える。そして、考えた末にたどり着くのは、私がいるために作り出された母の寂しさがそうさせたんだという考え。
 
 父はもう母を愛してなどいない。それでも、父が離婚を切り出さないのは慰謝料を払いたくないのと、私を手放したくないから。父は私のことは愛している。それが母は許せないのだ。自分が愛する夫は、自分ではなく娘だけに愛を注いでいる。その状況が許せない。そして、心に穴が開く。寂しさを感じる。単身赴任で離れて暮らす夫は自分を捨てたんだと考える。

 だから、母は薬と浮気で気分を紛らわせる。

 母がこうなってしまったのは紛れもなく私のせい。

 私のせい。私が悪い。私がいるから。私のせい。私のせい。悪いのは私。
 
 悪いのは私。
 
 私は、何時の間にか自分を追いつめていた。

 私は元の母に戻ってほしい。薬や浮気を知らず、優しかったあの頃の母に。
 
 そのためには、母の気を引かなければならない。私はあなたの生んだ可愛い娘だということを思い出してほしいから。
 
 だから、私は血を流す事にした。
 自分の手首を切って血を流すことにしたのだ。私は生きていると思いださせるために。

 何度も何度も傷を付けては、母に見せつける。

 それなのに、母は私を気にかけてくれない。

 もう、私を忘れてしまったの?私はただの邪魔な同居人?


おそらく昨日の
Pm7:00

 自分自身を傷つけるようになって数年がたった。母は変わらないままだった。

 ここ数年の間に私はこう考えるようになった。
 私が死ねば母は思いだしてくれるのではないかと。

 私が死んで、唯一の愛を失ったと気づけば、母はきっと更生してくれる。そして、正気に戻ったその時、私を思い出してくれるはず。

 そう考えるようになって数年、私はやっと決心した。

 今日、死のう。

 さぁ、どうやって死のうか。

 

 …いつものように血を流そう。

 自分の部屋で、父にメールで遺書を送ってから。ナイフを手首に当てる。
 
 正確な場所に、いつもより深く。

 私は今日死ぬ。

「さようなら。お父さん、お母さん。」

 そう言うと、私は手首を切り始めた。

 これで母は私を思い出してくれる。

「本当に、それでいいのかい?」

 誰かが私に囁きかけてきた。
 
 部屋を見渡す。

「誰?誰かいるの?」

「本当にそれで思い出してくれると思うのかい?」

 また声が聞こえる。

「うるさい!これでいいの。きっと思い出してくれるんだから!」

 手首を切る作業に戻ろうとしたとき、誰かが私のクローゼットから出てきた。それはブタのマスクをかぶった人間だった。

 私は何が起こっているか理解できず、立ちすくんだ。
 
 そのブタマスクの人間は私の頭を殴ると、注射器を腕に刺してきた。

Am2:30

 痛い。床がザラザラした感じがこすれて痛い。
 ここどこなの?
 真っ暗で、何も見えない。
 
 私は床にあおむけに倒れているみたい。

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Am5:30
カイル

「あんたどうかしてるよ。そんなことしたって、何の解決にもならねぇよ。」