お弁当ものがたり
野山や海で食べるおにぎりの味
子どもの頃は野山や海でめいっぱい遊んでいました。山(といってもこちらは丘くらいの高さですが)に畑があって、日曜日に母が畑仕事をするときにはお弁当をもって一緒に行ったものです。
おにぎりとゆで卵やソーセージをもって。その頃は魚肉ソーセージが一般的で、ウインナーが世の中を席捲するのはもうちょっと後でした。その魚肉ソーセージを、一本丸ごともっていってかぶりつくのです。
不思議なことに、野山や海で食べるお弁当というのは、ものすごく美味しいのです。おかずがたとえば紅ショウガだったり、梅干し一個だったとしても。
もちろん、ペットボトルのジュースなんてありませんから、水筒に水を入れて。あ、そうそう粉末のジュースがありました。水だけでは物足りない時はそれをもって行って水に混ぜて飲みました。
ほほいのほい〜ともういっぱい♪
というCMソングを懐かしく思い出される方もいらっしゃるでしょう。そう。あれです。
ビミョーに美味しかったですね。
海に行くときには飲み物は水か麦茶です。塩辛いから。
帰ってから一風呂浴びて、その粉末ジュースを飲むのが大好きでした。まるで風呂上がりに一杯やるおっさんですね。
それにしても。
なぜか野山や海で食べると、美味しくて普段よりたくさん食べられるのです。ですから、ちょっと多めに作ってもって行くわけです。
大人になってからのことですが、母が磯に行くとき、何度かワタクシと夫も一緒に行ったことがありました。ええ、やはりおにぎりが美味しくて、物足りなさを感じていたわけですが。
ところがある日、お昼を食べたあと、妙に満腹感を感じたのです。
「いつも物足りないのに、今日はおなかいっぱいだね」などとのんきに話していたら、母が来て、
「あれ? わたしのおにぎりは?」と聞きます。
慌てて探しましたが、見当たりません。すでにワタクシと夫のおなかの中だったのです。
「いやあ、どうりで今日は満腹になったわけだ」と夫は恐縮しながら言っていました。
その日、母はお菓子とお茶のお昼ご飯でした。ごめんね。おかーちゃん。
実家の畑は一つはバブル期に買い手があって売り、そこにはマンションが建っています。桑の実を摘んだり、学校で飼っていたウサギのえさの葉っぱをとりに行ったりした畑です。日当たりのいいその畑の一部を養蜂家に貸して、蜂蜜をもらったこともありました。
もう一つの畑はバブルが崩壊して造成をやりかけたまま放置されたので、立ち入ることもできなくなってしまいました。なんでもやはりマンションの建設予定があるので、そこだけ畑にしておけないので、一緒に更地にさせてくれと業者が言ったとか。
その場所を下の道路から見上げると、背の高くなった笹が生い茂っているのが見えます。
小学校の頃、理科の教材にするのに、サヤエンドウの花を持っていくことになっていたのに忘れていて、登校する直前思い出して、畑まで駆け上がって採ってきたことを思い出しました。
ワタクシは食いしん坊ですから、美味しいモノには目がないのですが、今まで食べたものの中で何が美味しかったかと聞かれたら……。
野山や海で食べたおにぎりがダントツだと答えます。