暗行御使(アメンオサ)の秘密~燃え堕ちる月~3
「チョンピョンっ」
文龍が蒼白になって、相方に駆け寄る。
しかし、若い武官は一瞬で絶命したようだ。一撃で息の根を止めた―しかも、その瞬間すら眼にできないほどの早業、まさに奇蹟としか言い様のない剣技だ。
文龍と組んだこの武官も義禁府勤務であるからには、相応の遣い手には間違いない。なのに、その熟練した武官をあっさりと赤児の手を捻るように交わし、あまつさえ一撃で息の根を止めた。
鬼神でも乗り移らなければ、これだけの腕は見せられないだろう。凛花は凄まじい腕を持つ相手の出現に言い知れぬ恐怖を憶えた。
直善を庇ったのには相違ないが、男は武官を切り棄てると、すっと直善から離れ、距離を取った。
一体、何者であろうと先刻の剣の主を探しても、既に彼(か)の人物が誰であったかは判別できなかった。
直善より大分離れた位置に、荷車を引いていた男たちや内官たちが集まっている。遠巻きにこちらを見ている内官の中には、あまりにも無惨ななりゆきに今にも失神しそうな者までいた。
作品名:暗行御使(アメンオサ)の秘密~燃え堕ちる月~3 作家名:東 めぐみ