これは明け方のバーのマスターの物語
『もう、朝になっちゃったよ、マスター』
『みんな、起こさなくて大丈夫かな』
ソファーの方では死んだようにみんな寝ている。
『マスター、私がニューヨークに行ったら寂しい?』
『ああ、淋しい。でも、また会えるだろ・・・』
『わからない。今日が永遠の別れになるかもしれない・・・どうする』
『どうするって言ったって・・・』
『マスターが行くなって言ったら。。。行かない』
『・・・・嘘だろ。この嘘つき女、ははは』
『マスター、私のこと嫌い?』
『スケベしたいほど好きだ。ははは、とんだハレンチ親父だな』
『私、マスターのこと好きだから、いいよ。。。。』
『大人をからかうもんじゃない。だけど、うれしいよ。。。』
『やっぱりマスターね・・・』
『・・・・・・』
『マスター、こっち来て』
彼女はキスを求めるようにカウンターの上に乗り出してきた。
僕達はカウンターを挟んでキスをした。
あたたかい彼女の唇がドキリとした。
『最初で、最後のキス。マスターにプレゼント』
『最後なのか・・・残念・・・ありがとう』
喧騒のあとの二人のキスは静かなキスだった。
そして、それは永遠の別れのキスとなった。
(完)
作品名:これは明け方のバーのマスターの物語 作家名:海野ごはん