涙のわけ / 詩のようなもの
昭和の悲劇2
慟哭はどこから来たか?
慟哭は胃の腑の裏のあたり
身体の奥の奥の方から
何度も何度もやって来て
何度も横隔膜を突き上げた
決して心なんかじゃなかった
慟哭はなにゆえ来たか?
それは父の遺骸を荼毘にふそうと
棺を焼却炉に入れようとした時
慟哭は不意におとずれた
決して悲しみなんかじゃなかった
私はおえつと涙を堪えきれずに
誰かに支えられて
辛うじてやっと立っていた
父の遺影を抱きしめて
ともすれば崩おれそうになりながら
私は父を憎んでいた?
そう 確かに私は父を憎んでいた
だが私は父を愛していた
そう 確かに私は父を愛していた
憎み そして 愛していた
作品名:涙のわけ / 詩のようなもの 作家名:池本浩一