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涙のわけ / 詩のようなもの

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     工場日記1990

労働者はおおむね真面目に労働していたし、じぶんの与えられた作業には真剣に取り組んでいたが、しかし、責任の及ぶ範囲はそこまでで、というのも、それは当然で、最下級の働き手である彼等は、直属の上司に責任を負っても、会社自体には責任を負ってはいなかったし、取引先には無論、なんの責任も負っていなかった。

だから上司には、犬猫のように扱われ、単なる道具、将棋の歩のように動かされても、文句は言えなかった。実際彼等は、いい歳をして、年下の上司に「馬鹿」だの「阿呆」などと平気で罵倒されても、唯々諾々として、彼等に従うしかなかった。「おっつあん、いい加減にせえよ、つまらん失敗ばかりしやがって」などと言われても、黙ってヘラヘラしているしかなかった。

時には事務員の女にも、虫けらのような扱いを受けていたが、反論も出来なかった。だから、それらおっつあんやおばちゃんや、アンちゃんやネエちゃんは、いわゆる頭脳労働者に意識してか、無意識にか、底知れない憎悪を孕んでいた。ことあれば、殺しかねないほどの殺意と、卑屈な憎悪にまみれていた。

だが、お目出度い連中の中には、彼等、ホワイトカラーに阿り、阿呆の親近感を持っている者もいた。が、敬愛、しかし彼等は彼等から名前も知られていなかったのである。