しっぽ物語 11.豚飼い王子
「Gが来てたってことは、認知はされてるのか」
「されてない。養育費も慰謝料もなし」
「お袋さん、訴えてないみたいだな。この前地元の裁判記録を覗いたが、Lの女絡みに関する訴訟は一つもない。他の人間が泣き寝入りしたとは思えないから、上手く遊んでるってわけだ」
「みたいだね。お袋が奴の悪口言ってるの、見たことないから」
「それはつまり」
「愛してる? ちょっと違うな。情って言うのか、女の細やかさかな」
「それはつまり、まだ嫌ってないってことじゃないか」
「俺に聞かれても。一つ言えるのは、お袋はとてつもない馬鹿だってことだけさ。いつまで経っても昔の男のことばっかりウジウジ悩んで金もふんだくれず……まあ、養ってくれたっていうのはあるけど、それだって殆ど実家の仕送りだもんな。それに正直、本当に大学行ってたかどうかも怪しいもんだ。ナイチンゲールとウグイスは同じ鳥だって、つい最近まで勘違いしてたもんな」
「ウグイス?」
「お袋の故郷でよく飛んでる鳥だよ。でも、歌は上手かったな。いつも料理作りながら『いとしのアウグスチン』を歌ってた」
「それも立派な教養さ」
「歌っても金なんか入ってこないじゃないか。馬鹿だよ。馬鹿」
「もしくは……こんなこと言うのもなんだが、怒るなよ。お袋さんがLと付き合ってた時期、他にも男がいたって可能性は?」
「ないってお袋が言ってるんだから、信用するしかないじゃないか。それに、今は手術してこんなだけど、俺も弄る前は、結構Lと似てたんだぜ。目とか、鼻とか」
「やっぱり整形してたのか」
「ムショ仲間に街で会って声を掛けられるなんて、最悪じゃないか。思い出したくもない」
「あそこは酷いって噂だからな」
「酷いも何も…………掃き溜め以下さ。本筋から離れたな。出てからすぐ手術を受けた。思いっきりお袋に似せてくれって注文したから、多分誰も気付かないだろうさ」
「どうしてまた」
「もうかたっぽに似せたくなかったからだよ」
「似せたほうが、いざというとき信憑性があるんじゃないか」
「たとえそうだとしても、真っ平ごめんだね。それに……いつか奴に会った時、お袋のこと思い出すかもしれないだろう。今はもう、完全に忘れてるだろうから」
「幾らなんでも、自分とそれだけ深く関わりを持った人間の顔、忘れやしないだろう」
「期待はしない。一つこっちから質問いいか、天使の話」
作品名:しっぽ物語 11.豚飼い王子 作家名:セールス・マン