母から私 私から娘へと ~悲しみの連鎖~ (続)
我が家での初めての試着会当日には、近所の奥様連中が三人ほど集まった。
小阪さんの所でやった時と同様に、大木さんを中心に試着会は和やかに進んだ。
私は前回購入したハイウエストガードルがとても気に入っていたので、その話をするとみんなも同じものを注文した。
『こんなに簡単に売れるものなの?』
それが私の、その時の感想だった。
みんなが帰った後、大木さんはその日の売上を計算して、その中の一部を私に渡してくれた。これがこの仕事の特徴だった。試着会を開いた人の紹介で誰かが買うと、売れた金額の一部が紹介者に現金で還元される。その分、考えようによっては安く買えることにもなるし、希望すればサイドビジネスにもなるというわけだ。
そんなわけで、大木さんに勧められて、まず小阪さんがお仕事としてスタートした。様子を見ていると、とても楽しそうだった。そして私は、小阪さんのお客さんということになるらしかった。
私が買ったハイウエストガードルはとても効果があって、私はウエストが短期間で元通りになった。それが嬉しくって、会う人、会う人に勧めた。その結果、小阪さんのお客さんはどんどん増えていった。
私が初めて参加した試着会に来ていた高山さんも、小阪さんの紹介で仕事として始めた。高山さんはもう六十歳を過ぎたおばさんで、車の免許もないので、移動は全て電車かバスか歩きしかなかった。スーツケースのサンプルだって、余り多くすると持って歩くのが大変だから、いつも最小限だった。それでも元気に楽しそうに頑張っていた。
そんな時、また大木さんから仕事に誘われた。今度は小阪さんも一緒になって勧めてきた。私が仕事の時には、私の代わりに次男の面倒も見てくれると言う。
正直私は気持ちが揺れた。あてにしていた在宅ワークも余り収入にならなかったから、何かしたいとは思っていたし、一応徹さんにも相談してみたが、彼はあまりいい顔はしなかった。それでも私は小阪さんの勧めるままに、「一度説明を聞いてみたら」と言われて、横浜の代理店さんの所に連れて行かれた。
そこに集まっている人たちは皆、一様に輝いて見えた。話を聞いてみると、みんなそれぞれに内容は違っても、これっていう目標を持って取り組んでいるらしかった。いつもただ毎日家にいて、家事と育児だけをやってる私とは雲泥の差があった。気が付くと私は、その人たちを羨望の眼差しで見つめていた。
『人に会うのが苦手な私だけど、やればできるんじゃないか』と思えた。
そこの代理店さんがまた素敵な女性で、大らかでみんなを包み込むオーラのようなものを感じさせる人だった。その人もこの仕事を始める時には旦那さんに反対されて、スーツケースの中身を何度も外に放り出されたりしたこともあったと言う。それでも『負けるもんか!』という気持ちで、今日まで頑張って来たのだとか……。凄いなあと感心した。
『私もこの人の下で仕事をしてみたい』そう思った。
作品名:母から私 私から娘へと ~悲しみの連鎖~ (続) 作家名:ゆうか♪