An empty angel─信頼の意味─
「貴方は分かっていない」
「何をでしょう。確かに人は、多くを守ることなど出来ない。少佐は間違ったことを仰ったわけではありません。ですが、我々が戦場において少佐を守ろうとすることを信じていただけないのでは……」
「違う」
彼の言葉を途中で遮り、彼女は静かに、けれど強く言い切った。
「貴方は間違えている」
「……少佐?」
「私に同期はいらない。戦友もいらない」
少女はいったん瞬くと、低い声で言い切った。
そして、鮮やかなまでに美しい笑みを、造りばかりは繊細な顔立ちに浮かび上がらせた。
「私を信じて守ろうとする者などいらない」
「……少佐!?」
切り捨てるような言葉に、彼は覚えず声を荒げた。少女は彼を一瞥すると、それきり何も言わない。こつりと靴音を立てて横を通り過ぎた。
呼び止める言葉を思いつけず、細すぎる背を見送った彼。
ただ立ちつくす耳に、一瞬だけ声が届いた。
「……それが、私の。私なりの誠意だよ」
そんな錯覚をした。
作品名:An empty angel─信頼の意味─ 作家名:Bael