中年黄昏流星群
お互い手を離さず腕を組み 海に続く川沿いの道を歩いた
ネオン看板が水面に揺れ ホテル街の灯りがなまめかしく見えた
「どこに行きたい?」僕が聞いた
「あそこのホテル・・・」
「。。。。。。」
「冗談よ びっくりした?」
「びっくりした。。。演技じゃないかと思った」
「演技だから言えるのよ 普段言えない言葉が」
「それって 言ってみたくなる時があるってこと?」
「あるわよ。。。」
「へぇ~ 妬けるな。。。。」
僕らは大きな橋を渡り 屋台が並ぶ道に出た
今夜はもう すでに客は少なくなり 店をたたむところもあった
彼女は甘えた声で
「いい男が連れて行く場所は決まっているんでしょ?」と言った
「ああ もう決めてある」
僕は川沿いの道から外れ
公園の大きなイチョウの木の下に連れてきた
すでに大部分の葉が落ち
あたり一面 街灯に照らされ黄色の世界だった
「雪景色みたい」彼女は喜んでいた
ここのイチョウは 100年以上の年月がたっている
このあたりでは知られた大銀杏だ
大きな木の下に来ると 子供のような気になるから不思議だ
「ここは僕が好きなところの一つ」
「すご~い いきなり別世界ね よく知ってるわね」
「ああ 小さいころからここで遊んでた」
「へぇ~ じゃこの辺のガキだったんだ」
「そういうこと。。。」
僕はイチョウの落ち葉を彼女の肩に乗せ始めた
「なあ~に?」
「おまじない 小さいころやってたんだ」
「どんな おまじない?」
「知りたい?」
「もちろん知りたい」
「このまま 君が僕を好きになってくれますよ~に。。。と」
僕達は見つめ合って笑った
ビルの谷間にあるこの公園の空は晴れていたが
街の明かりで流星は見えそうでなかった
「じゃ これで黄昏流星群ごっこはおしまい」僕は言った
「え~ もう終わっちゃうの?」
「ここで終わるから ロマンチックなんだ」
彼女は残念そうな顔をしていた
そして
「そうね。。。まだ長くいたかったけど。。。。ありがと」
「どういたしまして。。。」
僕は彼女のそばに立ち 唇にキスをした
短いキスだった
僕達の流れ星が 流れた 短い閃光を放って
中年のお遊びは これくらいで切り上げた方がいい
僕と彼女はイチョウの木の下でさよならをした
明日以降 会えるかわからない
でも
どこかで もしまた会えたら 続きは長くなりそうだと思った
(完)