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シミツイタ、モノ

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これは、一丸豪(いちがん・ごう)という少年が小学2年生だった頃のお話です。
 ある日、彼の父親の(双子の)お兄さんが突然やってきて手鏡を置いていきました。
 しばらく海外出張に出ていた豪の伯父さん。彼は出国前と違ってかなり痩せていました。しかも妙に顔色が悪く、父も自分もひどく驚いたのを覚えています。

「おとうさん、おじさん、なんかヘンだったよ」
「まったく、どうしたんだろうねえ……しばらく仕事詰めだったからかもなあ?」

 ため息交じりに、父が言いました。
 豪は、父が手にしている手鏡が何故か気味の悪いものに見えて、なるべく視界に入れないようにしていました。
 父が自分の兄から貰い受けた手鏡は、なかなか上等なものだったようです。母はとても気に入ったようで、今まで使っていた手鏡を豪の姉にやり、父から貰った手鏡を使いはじめるほどでした。
 その手鏡というのは、決して新しいものではありませんでしたが、とても洒落た品物でした。今知っている言葉を使うなら『アンティーク』という言葉がぴったりです。細い蔦と小さくて白い花が飾られているデザインでした。それが何の花なのかは、豪には最後までわかりませんでしたが。
作品名:シミツイタ、モノ 作家名:狂言巡