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風香の七日間戦争

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三日目 「親友の後押し」


 朝になり、風香は時計のベルの音で目を覚ました。
(そっか、私いつのまにか寝ちゃったんだ)
(せっかく二人きりだったのに)
服を着替えて下に降りていくと、小岩井がいた。
「おはようございまーす」
「おはよう」
「昨日は遅かったんですか?」
「ああ、ちょっと難航して遅くなっちゃったな」
「あの、あんまり無理しないでくださいね」
「うん、ありがとう」

 洗面台で顔を洗い鏡を見ると、少々髪がはねている。
持ってきた小さな鏡ではよくわからなかったのだ。
(やっぱり後で手鏡買ってこよっと)
台所に行き、朝食の用意をする。
「小岩井さんちって、朝はご飯なんですね。うちは大体パンです」
「あれ? パンの方がよかった?」
「あっ、そうじゃないです。家によって違うんだなと思っただけで」
「そうか。たまにはうちもパンにしてみるかな」
「小岩井さん、卵は目玉焼きとスクランブルエッグどっちがいいですか」
「えーと、じゃあスクランブルエッグにして」
「はい」
朝食を作っていると、自然と鼻歌がでてくる。
(うん、こういうのいいかもしれない)
風香はちょっと幸せであった。

 食事と片付けを終え二人はお茶を飲んでいる。
「よつば迷惑かけてないかなぁ」
「やっぱりよつばちゃんがいないと寂しいですか?」
「いや、今日は風香ちゃんがいるから寂しくないよ」
「ふふ、小岩井さんでもお世辞言うんですね」
「えー、じゃ、じゃあ俺は仕事するから。ごちそうさま」
「はーい」

 そして風香は今日やることを考える。
「掃除と洗濯してお布団干して、あとお昼か。よつばちゃん帰ってくるだろうし、どうしようかな。昨日何食べたっけ。そうだ外に食べに行ったんだ。うーん悩むー」
とりあえず掃除と洗濯をすることにした。
布団まで干したので、今日も汗だくである。
「今日もシャワー借りよーと」

 脱衣所のドアに「風香入浴中」と書いた紙を貼って浴室に入る。
服は手洗いすることにした。
体を洗いふと鏡を見る。
「昨日あんなに磨いたのに。やっぱり私魅力ないのかな。それとも私から誘わなきゃだめなのかなぁ」
しかし風香は小岩井に”妹”と思われることが怖かった。
そのため今のラインから踏み出すのを躊躇していた。
とりあえず夏休みはまだまだ長い。
風香は後で考えることにした。

 着替えて台所に行く。
当面の問題は昼食の献立である。
風香が考えていると、玄関から声が聞こえてきた。
「ただいまー」
「こんにちはー。風香お姉ちゃんいるー?」
よつばと恵那が帰ってきたようなので玄関に行く。
「おかえりー。楽しかった?」
「うん、うまかった!」
「よつばちゃん、いっぱい食べてたねー。お姉ちゃん、それでね、みうらちゃんのお母さんがこれどうぞだって。おこわとおかずみたい」
「恵那、ナイス!」
「? じゃあ私帰るね。よつばちゃんバイバイ」
「おー、えなあとでなー」

 恵那の持ってきたお重を開けてみると、下段におこわ、上段に筑前煮や里芋などが入っている。
「こういうのは私作れないなぁ。キャリアの差ね。お昼はこれに生野菜でいいかな」
小岩井の仕事部屋に行くと、よつばが小岩井の背中によじ登って遊んでいる。

「小岩井さん、みうらちゃんのお母さんからおこわとおかずいただいたんですけど、お昼それでいいですか?」
「ああ、よつばからちょっと聞いたよ。俺は構わないけど。つか、みうらちゃんのお母さんには迷惑かけちゃったなあ。電話しておこう」
小岩井はさっそくみうらの母親にお礼の電話を入れた。

 昼になったので先ほどのお重を食べる。
「あ、この筑前煮おいしい。みうらちゃんのお母さんってお料理上手ですね」
「こういう料理は結婚しないとなかなか作らないからね。風香ちゃんも結婚すれば弁当と家庭料理を作るようになるよ」
「ふーかけっこんするのか!?」
「まだしないよー」
「とーちゃんもけっこんしないな」
「いいからおまえはちゃんと食べてろ」

(結婚かあ。もし小岩井さんと結婚したら、こんな感じになるんだよねえ)
「……ちゃん、風香ちゃん?」
自分が呼ばれていることにしばらく気がつかなかった風香は、あわてて返事をする。
「は、はい。何でしょう」
「俺、今日はこの後仕事に入っちゃうんで、好きなことしてていいよ。出かけてもいいし」
「え? よつばちゃんは大丈夫ですか?」
「よつばはえなのうちにいく!」
「おまえまたお隣行くのか。今日は家にいた方がいいんじゃないか?」
「さっきえなとあそぶってやくそくした」
「そうか、じゃあ行って来い」

 食事が終わり後片付けをする。
洗い物を済ませ、布団と洗濯物を取り込み終わると、玄関でチャイムが鳴った。
出てみるとそこには風香の友達のしまうーがいる。
「げっ、なんでしまうーがここに?」
「あ、よつばちゃんのお母さん、こんにちは」
「ちょっと誰がお母さんよ」
「まあとにかく中に入れてよ」
しまうーを居間に通し、麦茶を出す。
「よつばちゃんちってこんな感じなんだ」
「なんで私がここにいるってわかったの?」
「あんたんち行ったらここだって言われたから」
家族に口止めしてくるのを忘れたのだ。
「おもしろいね。よつばちゃんが風香の家に行ってて、風香がこっちの家にいて」
「それで今日の御用は?」
「おとといかな。あんた商店街を小岩井さんと腕組んで歩いてたでしょ」
風香は麦茶をふき出しそうになった。
「み、見てたの?」
「水臭いよねえ。風香の姿が見えたから声をかけようとしたら、逃げるように別な道行っちゃって」
「だって知り合いに会うの恥ずかしかったんだもん」
「それにしちゃ堂々と腕組んでたけど。そんなわけで面白そうだから、あんたたちの後をつけた。スーパーでもラブラブだったよねー」
風香は耳まで赤くなっている。

「それであんたたちいつから付き合ってるの?」
「別に付き合ってない」
「うそ! どっから見ても恋人同士って感じだったよ!」
「うん、エプロンしたまま腕組んでたら、奥さんて言われた」
「そりゃそうだ」
「それで私真っ赤になっちゃって。でも、小岩井さんは態度があまり変わらないから、気持ちがよくわからないの」
「じゃあ、風香の片思いなんだ」
風香は下を向いてうなずく。
「そっかー。でもたとえ両想いだったとしても、大人の小岩井さんの方から未青年の風香に告白することはないと思うよ」
「……うん。そうだね……」
「なるほどね。だからここに来たんだ。少しは進展した?」
「仲良くはなったと思うけど、進展したっていう感じじゃない」
「それじゃやっぱり風香から言うしかないよ。せっかくここまで努力してるんだから」
「わかってる。でも怖いの。妹としてしか見られてないんじゃないかって」
「確かにそれはあるよね。じゃあこうしたら? がんばってアタックして帰る日に告白する。確かめないままズルズルと過ごしたら絶対後悔すると思う」
「うん、わかった」
しまうーはファイトと言って帰って行った。

「アタックかー。どうすればいいんだろ。お姉ちゃんに聞いてみようかな。でもお姉ちゃんのまねはできそうにないな」
この二日間自分がやってきたことをまったく理解していない風香であった。
作品名:風香の七日間戦争 作家名:malta