ラブレター
かおり
放課後の教室に一人。私は思いを寄せているあの人を待つ。今日は勇気を振り絞って、あの人に声をかけた。クラスでも一番人気の塚田君。
「放課後、教室で待ってるから、5時に来て。渡したいものが、あるから。・・うん、部活あるの知ってる。でも、お願い」
5時。部活が始まる前でも終わった後でもない、中途半端な時間。塚田君にとってはきっと迷惑な時間。でも、私は5時を指定した。だって、部活が始まる前や終わった後じゃ、誰かが教室に来るかもしれない。部活の途中なら、きっと教室には誰も来ない。
塚田君は困った顔をしたけれど、5時に教室に来るって約束してくれた。時計の針はもう4時半を回っている。緊張で胸が張り裂けそう。私は今日塚田君にラブレターを渡す。メールでも電話でもない、手書きのラブレターを。思いを込めて書いた、私のラブレター。
その時教室の扉が開いた。私の心臓が爆発するかと思うくらい、ドキンて鳴った。まだ心の準備ができてないよ。だって約束の時間まで、まだ後20分もあるんだよ。けれど、教室に入ってきたのは塚田君じゃなかった。私の友達の桜だった。今日ラブレターを渡すことは、みんなに内緒だけど、桜にだけは言ってある。だって、クラスで一番の仲良しだから。知り合ったのは高校に入ってからだけど、とても気が合うんだ。
「見に来ちゃった」
桜は意地悪な笑顔で言った。
「来ちゃったじゃないでしょ。もうすぐ待ち合わせの時間なんだから出てってよ!」
どうしよっかなー、なんて言いながら、桜は教室を出て行くどころか、どんどん私に近づいてくる。桜って、こうやってわざと人を困らせて楽しむような所がある。普段はそれだって笑い話になるけど、今日は大事な日だから、私は本当に桜に出て行って欲しかった。
「桜、今日だけはほんとにマジなの!出て行って!」
困っている表情を浮かべているであろう私の顔を見ると、桜はますます嬉しそうに笑う。もう桜は私の目の前まで来ていた。ねえ、あんたどS?
「じゃあね、ラブレター、ちょっとだけ読ませてくれたら出て行ってあげる!」
満面の笑顔で言うなり、桜は電光石火、私の手に持っているラブレターをさっと奪い取った。一瞬何をされたか分からなかったけれど、
「ラブレターゲット!」
って言いながら、笑顔で手紙を持つ右手をひらひらさせている桜を見て、数秒遅れで状況を飲み込んだ。さすがに冗談。中身までは見られることはない。ちょっといたずらして、私の反応を楽しんでいるだけ。普段だったら、落ち着いて考えられたならそれは分かった。でも、ラブレターを獲られた私はパニクっていた。本気で、桜はこの手紙を開封して読むつもりだって思った。絶対にそれは嫌。だって恥ずかしすぎるよ。生まれて初めて書いたラブレター。恋の告白も、私は初めて。小学生の時も中学生の時も、好きな人はいたけど告白なんてしなかった。できなかった。奥手だった私。そんな恋に不慣れな私が書いたラブレターは、友達に読まれたらきっともう学校に来れなくなってしまうくらい恥ずかしい文章だってこと、私にだって分かる。この手紙は、塚田君だけに見せるものなの。
「ちょっと返してよ!」
私は桜が手紙を持っている右手に向かって手を伸ばす。ひらり。桜はきれいにかわす。追いかけて、何度も右手に向かって手をのばす。ひらりひらり。もう!どうしてあんたってこんな時に運動神経良くなるの?体育の成績だって、私と同じくらいだよね?
私は右手の手紙を捉えるのを諦めた。どうしようか。
桜
その時私は顔面に強い衝撃を受けたの。え?何?何?何があったの?って感じ。何が起きたかも分からないまま、私は教室の床に尻餅をついて倒れた。続いて私は鼻に強烈な痛みを感じて、とっさに鼻に手を当てた。ぬるっとした液体が手についたよ。これ、血じゃん。私の鼻血。気がつくと私は涙まで流してる。ゆっくりと理解する。私はかおりに殴られたんだ、顔面を。
かおりを見ると、手にはラブレターを持っている。殴られた私が手から手紙を落としたのを拾ったんだねきっと。取り返したことにとても満足そうに、幸福な表情を浮かべてる。
かおり
良かった。奇襲作戦成功!無事にラブレターを取り返して私はほっと安心する。
「いったいなぁかおりー」
桜は満面の笑顔で立ち上がってくる。
「ここまですることないんじゃない?ちょっとしたいたずら心だよ?」
言葉にはちょっと怒っているような棘があるのに、桜は笑顔のままだった。怖いなぁ、なんか。でも私は悪くない。だって自分の物を取り返しただけだよ?違う?
「もぉ~、桜が・・」
もぉ、桜がいけないんだからね、と言いかけて、私は息を飲んだ。桜は制服の内ポケットから折りたたみ式ナイフを取り出し、パチンと音を立てながらそれを広げた。彼女は相変わらずニコニコしていた。
「手紙、絶対読んじゃうってきーめた」
そう言いながら、桜は私に近づいてくる。私は、告白の日が先週の火曜じゃなかったことを後悔していた。先週の火曜日は、抜き打ちの持ち物検査があったから。あの時、人の指をもスパッと切断してしまえそうな肉厚のナイフを、桜は没収されていたっけ。そんなの、学校に持ってきちゃいけないよね?
桜
うふ。うふふふ。なんだろう。殴られてちょっと怒ってるのに。私は笑う。昔、女の子は笑顔の方がかわいいってお母さんに教わったから?うん、それもあるかな。でもなんだろう、私、私ね、不思議だけど、かおりが後ずさりするのを見るのが、とっても楽しいみたい。後10歩くらい歩けば追い詰められるかな?と思った時、かおりは制服の内ポケットから何かを取り出した。拳銃だった。ちょっと嘘でしょ。こないだ持ち物検査があったばかりなのに、そんなの持ってくるなんていい度胸。それとも逆に、もう近日中には持ち物検査は無いだろうっていう読み?かおりはそれを構えると、「止まらないと撃つよ」なんていう交渉を全くしないまま、拳銃を発砲した。数発の弾丸が私の胸やおなかにあたった。
かおり
よかった。狙い通り命中した。拳銃は護身用で持ち歩いてはいるけれど、射撃訓練なんてしたことないから自信なかった。でも当たってくれて本当によかったと思う。これってやっぱり私の日頃の行いがいいからかな?なんにしても、ラブレターを守り通せて本当によかった。塚田君が来る前に、桜を教室の外に出しておこう。血はどうやってごまかそうか。そんなことを思ったその時、信じられないことが起きた。ゆっくりと、桜が立ち上がってくる。嘘。ちゃんと胸に一発、おなかに二発当たったよ?それなのに。
桜は立ち上がりながら自分の皮膚をびりびりと破いてる。皮膚の下には、金属。破いた皮膚の下から現れたのは、金属。桜ってすごく数学が得意だなぁとは思っていたけれど、まさかロボットだったの?そんなことって。信じられないよ。桜は両手の指先を私に向けた。続いて桜の両手の10本の指全ての第一関節から先が外れた。桜の第一間接から先を無くした両手の指先は、10本全てに丸い穴が開いている。
「ネエ カオリ」
放課後の教室に一人。私は思いを寄せているあの人を待つ。今日は勇気を振り絞って、あの人に声をかけた。クラスでも一番人気の塚田君。
「放課後、教室で待ってるから、5時に来て。渡したいものが、あるから。・・うん、部活あるの知ってる。でも、お願い」
5時。部活が始まる前でも終わった後でもない、中途半端な時間。塚田君にとってはきっと迷惑な時間。でも、私は5時を指定した。だって、部活が始まる前や終わった後じゃ、誰かが教室に来るかもしれない。部活の途中なら、きっと教室には誰も来ない。
塚田君は困った顔をしたけれど、5時に教室に来るって約束してくれた。時計の針はもう4時半を回っている。緊張で胸が張り裂けそう。私は今日塚田君にラブレターを渡す。メールでも電話でもない、手書きのラブレターを。思いを込めて書いた、私のラブレター。
その時教室の扉が開いた。私の心臓が爆発するかと思うくらい、ドキンて鳴った。まだ心の準備ができてないよ。だって約束の時間まで、まだ後20分もあるんだよ。けれど、教室に入ってきたのは塚田君じゃなかった。私の友達の桜だった。今日ラブレターを渡すことは、みんなに内緒だけど、桜にだけは言ってある。だって、クラスで一番の仲良しだから。知り合ったのは高校に入ってからだけど、とても気が合うんだ。
「見に来ちゃった」
桜は意地悪な笑顔で言った。
「来ちゃったじゃないでしょ。もうすぐ待ち合わせの時間なんだから出てってよ!」
どうしよっかなー、なんて言いながら、桜は教室を出て行くどころか、どんどん私に近づいてくる。桜って、こうやってわざと人を困らせて楽しむような所がある。普段はそれだって笑い話になるけど、今日は大事な日だから、私は本当に桜に出て行って欲しかった。
「桜、今日だけはほんとにマジなの!出て行って!」
困っている表情を浮かべているであろう私の顔を見ると、桜はますます嬉しそうに笑う。もう桜は私の目の前まで来ていた。ねえ、あんたどS?
「じゃあね、ラブレター、ちょっとだけ読ませてくれたら出て行ってあげる!」
満面の笑顔で言うなり、桜は電光石火、私の手に持っているラブレターをさっと奪い取った。一瞬何をされたか分からなかったけれど、
「ラブレターゲット!」
って言いながら、笑顔で手紙を持つ右手をひらひらさせている桜を見て、数秒遅れで状況を飲み込んだ。さすがに冗談。中身までは見られることはない。ちょっといたずらして、私の反応を楽しんでいるだけ。普段だったら、落ち着いて考えられたならそれは分かった。でも、ラブレターを獲られた私はパニクっていた。本気で、桜はこの手紙を開封して読むつもりだって思った。絶対にそれは嫌。だって恥ずかしすぎるよ。生まれて初めて書いたラブレター。恋の告白も、私は初めて。小学生の時も中学生の時も、好きな人はいたけど告白なんてしなかった。できなかった。奥手だった私。そんな恋に不慣れな私が書いたラブレターは、友達に読まれたらきっともう学校に来れなくなってしまうくらい恥ずかしい文章だってこと、私にだって分かる。この手紙は、塚田君だけに見せるものなの。
「ちょっと返してよ!」
私は桜が手紙を持っている右手に向かって手を伸ばす。ひらり。桜はきれいにかわす。追いかけて、何度も右手に向かって手をのばす。ひらりひらり。もう!どうしてあんたってこんな時に運動神経良くなるの?体育の成績だって、私と同じくらいだよね?
私は右手の手紙を捉えるのを諦めた。どうしようか。
桜
その時私は顔面に強い衝撃を受けたの。え?何?何?何があったの?って感じ。何が起きたかも分からないまま、私は教室の床に尻餅をついて倒れた。続いて私は鼻に強烈な痛みを感じて、とっさに鼻に手を当てた。ぬるっとした液体が手についたよ。これ、血じゃん。私の鼻血。気がつくと私は涙まで流してる。ゆっくりと理解する。私はかおりに殴られたんだ、顔面を。
かおりを見ると、手にはラブレターを持っている。殴られた私が手から手紙を落としたのを拾ったんだねきっと。取り返したことにとても満足そうに、幸福な表情を浮かべてる。
かおり
良かった。奇襲作戦成功!無事にラブレターを取り返して私はほっと安心する。
「いったいなぁかおりー」
桜は満面の笑顔で立ち上がってくる。
「ここまですることないんじゃない?ちょっとしたいたずら心だよ?」
言葉にはちょっと怒っているような棘があるのに、桜は笑顔のままだった。怖いなぁ、なんか。でも私は悪くない。だって自分の物を取り返しただけだよ?違う?
「もぉ~、桜が・・」
もぉ、桜がいけないんだからね、と言いかけて、私は息を飲んだ。桜は制服の内ポケットから折りたたみ式ナイフを取り出し、パチンと音を立てながらそれを広げた。彼女は相変わらずニコニコしていた。
「手紙、絶対読んじゃうってきーめた」
そう言いながら、桜は私に近づいてくる。私は、告白の日が先週の火曜じゃなかったことを後悔していた。先週の火曜日は、抜き打ちの持ち物検査があったから。あの時、人の指をもスパッと切断してしまえそうな肉厚のナイフを、桜は没収されていたっけ。そんなの、学校に持ってきちゃいけないよね?
桜
うふ。うふふふ。なんだろう。殴られてちょっと怒ってるのに。私は笑う。昔、女の子は笑顔の方がかわいいってお母さんに教わったから?うん、それもあるかな。でもなんだろう、私、私ね、不思議だけど、かおりが後ずさりするのを見るのが、とっても楽しいみたい。後10歩くらい歩けば追い詰められるかな?と思った時、かおりは制服の内ポケットから何かを取り出した。拳銃だった。ちょっと嘘でしょ。こないだ持ち物検査があったばかりなのに、そんなの持ってくるなんていい度胸。それとも逆に、もう近日中には持ち物検査は無いだろうっていう読み?かおりはそれを構えると、「止まらないと撃つよ」なんていう交渉を全くしないまま、拳銃を発砲した。数発の弾丸が私の胸やおなかにあたった。
かおり
よかった。狙い通り命中した。拳銃は護身用で持ち歩いてはいるけれど、射撃訓練なんてしたことないから自信なかった。でも当たってくれて本当によかったと思う。これってやっぱり私の日頃の行いがいいからかな?なんにしても、ラブレターを守り通せて本当によかった。塚田君が来る前に、桜を教室の外に出しておこう。血はどうやってごまかそうか。そんなことを思ったその時、信じられないことが起きた。ゆっくりと、桜が立ち上がってくる。嘘。ちゃんと胸に一発、おなかに二発当たったよ?それなのに。
桜は立ち上がりながら自分の皮膚をびりびりと破いてる。皮膚の下には、金属。破いた皮膚の下から現れたのは、金属。桜ってすごく数学が得意だなぁとは思っていたけれど、まさかロボットだったの?そんなことって。信じられないよ。桜は両手の指先を私に向けた。続いて桜の両手の10本の指全ての第一関節から先が外れた。桜の第一間接から先を無くした両手の指先は、10本全てに丸い穴が開いている。
「ネエ カオリ」